2014年2月10日月曜日

忘却の彼方にあるであろう『WE3 ウィースリー』をば

こんにちは!

先日、ツイッターでつぶやいていたのですが、隔週(ときに不定期)で更新しておりました「アメコミ魂」は、今週より毎週月曜日20時頃更新と、毎週更新してまいります。立ち上げ当初はしばらく編集部の佐藤学が担当していましたが、多忙につき(?)、途中から私の方が代筆と称し、しばらく担当していました。今後はアメコミ担当の3人(もう少し増えるかもしれませんが)で持ち回りで更新してまいります。各々が自由に好きなことを持ち回りで書いてまいりますので、統一感はなくなると思いますが、三者三様の角度から多くの作品を紹介できればと思っています。引き続きよろしくお願いいたします。

■なぜいま『WE3 ウィースリー』なのか?

さて、今回は皆さまに忘れ去られてしまったであろう良作『WE3 ウィースリー』以下『WE3』)をご紹介しようと思います。「なぜ、いまさら『WE3』なの?」と疑問を持たれる方もいらっしゃるでしょう。動機は単純と申しますか……些か不純であります(最終的には新刊の告知というオチです)
▲『WE3 ウィースリー』
グラント・モリソン[作]
フランク・クワイトリー[画]
堺三保[訳]
●市場在庫のみ(2016年現在)●
『WE3』は、DCコミックスの成人向けレーベル(ブランド)“バーティゴ”の作品で、作者はグラント・モリソン&フランク・クワイトリーです。そう、2月26日頃発売の『デイトリッパー』は“バーティゴ”レーベルの作品、同日発売の『バットマン&ロビン』はグラント・モリソン&フランク・クワイトリーが手掛けた作品……ということで、バーティゴ繋がり、著者繋がりと、ある意味新刊の宣伝も兼ねつつ、少し強引に『WE3』を紹介しようかなと……(『JLA:逆転世界』も同じ作家チームだろという声も聞こえそうですが、バーティゴではないので『WE3』を)。

■バーティゴとは?

日本語で「めまい」を意味するバーティゴ(VERTIGO)レーベルは、DCコミックスが有するレーベルの一つで、サスペンスやホラー、ファンタジー色の強い成人向けの作品を扱っています。成人向けといってもいわゆる18禁ではなく、内容が子供向けではないことを指しています。とはいえ、成人向けなので物語上不可欠な暴力描写や残酷な場面は当然あります。またキャラクターよりも作家性の強い作品が多く、『コンスタンティン』など映画化された作品も少なくありません。
▲『デイトリッパー』
『WE3』もバーティゴ作品ですので、銃弾と血飛沫が飛び交う暴力描写(少し言い過ぎでしょうか……)はありますが、あくまで物語上避けては通れない描写なので、それがメインの話ではないのでご安心ください。また同じくバーティゴ作品の2月26日頃発売『デイトリッパー』はそのような描写はほとんどなく、どちらかというとオルタナティブコミックに近いかと思いますが、『デイトリッパー』については別の担当が次回ご紹介いたします。

■モリソン&クワイトリーの強力タッグ

『WE3』を手掛けたライターのグラント・モリソンは、奇人、変人と言われることも多いのですが、アイズナー賞にも輝いた歴とした名ライターの一人です。小社作品では本作のほか『バットマン:アーカム・アサイラム 完全版』や『JLA:逆転世界』のほか、『バットマン・アンド・サン』をはじめとしたバットマンの新サーガなどがあります。また彼の奇人、変人ぶりは自伝的コミック史解説本『スーパーゴッズ アメリカン・コミックスの超神たち』で垣間見ることができると思いますので、気になる方はぜひご一読ください。
▲『バットマン&ロビン』
一方、モリソンと同じグラスゴー出身のアーティスト、フランク・クワイトリーはコミック本編のほか、華麗なカバーアートも多く手掛けています。モリソンとタッグを組むことも多く、本作や『JLA:逆転世界』のほか、『ニュー・X-MEN』『オールスター・スーパーマン』『フレックス・メンタロ』などがありますが、先にも述べたように2月26日頃発売『バットマン&ロビン』もモリソン&クワイトリーの作品の一つです。こちらも後日再び紹介することになると思いますので(前回の記事はこちら)、ここでは割愛いたします。

■『WE3』の魅力

さあ、バーティゴという成人向けレーベルで、モリソン&クワイトリー作品の『WE3』はどんな物語なのでしょうか? あらすじは下記のとおり。

米空軍最高機密研究施設では新たなサイボーグが開発されていた。それは、生体と金属とを組み合わせて設計された生物兵器で、“WE3”というコードネームをつけられたラブラドール犬、茶トラ猫、白ウサギの3体のプロトタイプだった。温かな家庭で飼われていたペットだったWE3には最新鋭の軍事用ハードウェアが組み込まれ、彼らは自律的でありながらも、忠実にして完璧に無慈悲な究極のスマート・ウェポンであった。だが、彼らが成功作だったとはいえ、所詮プロトタイプのため、テスト完了と共に解体されることになっていた。

しかし、本来の感覚を呼び戻したWE3は、廃棄処分を前に脱走を試み、恐怖と混乱に満ちた外の世界へと飛び出していった。執拗な追跡者達に対し、WE3は血みどろの戦いを挑むのだが……。


『WE3』は、一言でいうと、生物兵器に改造された挙句、廃棄処分にされそうになった三匹の動物の悲しい逃亡劇です。その三匹の動物がトラやクマのような猛獣ではなく、皆さんも触れ合ったことがある「イヌ、ネコ、ウサギ」という身近な動物たちなので、自然と感情移入してしまい……結末に涙してしまう……。複雑な物語を描くイメージのあるモリソンでしたが、本作の物語はとてもシンプルでストレート。余計なものを削ぎ落としたシンプルな物語だからこそ感動してしまいました。三匹にはそれぞれ飼い主がいたのですが、飼い主の話などは一切出てこない。各章の扉絵(原書出版当時のカバーアート)で「迷子を探すチラシ」が描かれているだけで、各家庭で愛されていたことを想像させる。これだけで充分なんですよね。彼らの背景を考えながら読んでいくと、グッときてしまいます。

また構成や描写も面白く、モリソン曰く実験的な作りになっています。アメコミっぽくないというと語弊がありますが、日本の漫画に読み慣れている我々にも読みやすいコミックになっています。また動物たちは片言ながら人間の言葉を話すのですが、「オウチ、カエル」「モドレ!」「ホイッ」などこの表現が読みすすめていくうちにホロッとさせる。堺三保さんに翻訳をお願いして本当によかったと思いました。

様々な危機、不条理や矛盾を潜り抜け、最後に彼らが向かうべきところはどこなのか……。気になる方はぜひ『WE3 ウィースリー』をご一読ください。日本では2012年に小社から刊行した作品ですので、書店さんに置いていない場合も多々あります。本書はいまある在庫がすべてですので、少しでも興味がある方はなるべく早めにご注文いただくことをおすすめいたします。

最後に、手塚先生の「W3(ワンダースリー)」や「ウェポン計画」との関係性、また『WE3』映画化の話はどこいった?など、さらに掘り下げることのできる『WE3』ですが、そのような話は機会があればその時に。

ではまた!


(文責:山本将隆)