2014年3月31日月曜日

新サーガ第二部『バットマン:ブルース・ウェインの帰還』

みなさん、こんにちは!

話題のバットマン新サーガ第二部、今月は第二弾バットマン:ブルース・ウェインの帰還』の登場です。超特大ボリュームの『バットマン&ロビン』に比べるとスリムな1冊ですが、あなどるなかれ。ライターは前作に続いてグラント・モリソン。ただの続編ではない、一筋縄ではいかない作品になっています。
『バットマン:ブルース・ウェインの帰還
グラント・モリソン[作]、クリス・スプラウス他[画]
定価:2,300円+税
●小社より発売中●
ということで、今回はこちらの作品を激推ししたいと思います。では、まず前作との関係性から。

バットマン:ブルース・ウェインの帰還』は、2010年に全6号のリミテッド・シリーズとして、『バットマン&ロビン』と並行して刊行されました。『バットマン&ロビン』では、ディック・グレイソン(元ナイトウィング)とダミアン・ウェインという新生ダイナマイト・デュオの活躍が描かれましたが、一方、本書では、元祖バットマンであるブルース・ウェインがその頃何をしていたかが描かれます。そして最終的に、これら2誌で描かれた物語が合流することになるのです。


さて、肝心の“何をしていたか”ですが、これについては本編のカバーアートをいくつか見ていただくのが一番いいでしょう。
▲原始人バッツ!
▲海賊バッツ!
……どうです? 気になりませんか?
(作品完結後まもなく、DCコミックスの関連会社であるDCダイレクトから、本作をテーマにしたアクション・フィギュアのシリーズが発売されますが、それも納得!)


ざっくり説明すると、ブルース・ウェインはタイムトラベルをして、いろんな時代でこんなふうに活躍するのですが、そこはグラント・モリソン、物語にはさらに仕掛けが施されています。


原始時代……大航海時代……西部開拓期と時間をさまようブルースは、各時代に存在するDCユニバースのキャラクターと次々と遭遇するのです。たとえば、西部劇の時代に迷い込んだ彼は、ウェスタン・コミックの名物キャラ、あの“ジョナ・ヘックス”(2010年の映画化は残念な結果でしたが)と相対すことに……。コミックの歴史を自家薬籠中のものにした、モリソンらしい遊び心に思わずニヤリ。“アメコミってスーパーヒーローだけじゃないんだなあ”とあらためて思わされます。


その他にも、作中のちょっとしたエピソードが時間を超えて『バットマン&ロビン』につながっていたりもするので、2冊そろえて読み比べていただければ、きっと興味深い発見があるかと思います。かくいう自分も、果たしてどれだけ理解できているのか、まだ自信がありません……。

ところで、本書には『バットマン&ロビン』でも個性的なアートを披露したフレイザー・アービングをはじめ、何人もの気鋭のアーティストが参加していますが、今回はカバー・アーティストに注目してみたいと思います。そう、先ほど紹介したイラストを手がけた、アンディ・キューバートです。

いわゆるアメコミ業界のなかでも、アンディ・キューバートを輩出した“キューバート一家”は、マーベル・コミックスを根城にする“ジョン・ロミータ一家”と並ぶ名門といえるでしょう。なにせ、父親のジョー・キューバート2012年に永眠……合掌)は1940年代から戦争コミックを中心に活躍した大ベテラン(サージャント・ロック、エネミー・エースの共同考案者!)。アンディと兄のアダム90年代のX-MEN関連誌で名をはせたスター・アーティスト。そして父親が設立したコミック学校“キューバート・スクール”は、アラン・ムーアとの仕事で知られるリック・ビーチ、“パワーガールといったらこの人”のアマンダ・コナーをはじめ、ジャンルを問わずコミックの第一線で活躍するアーティストを数多く育成してきたのですから。

本書にはそんなアンディの手がけたカバーアートが6点収録されていますが、ぜひ見ていただきたいのは、巻末特典として収録されたキャラクターのスケッチ“もしバットマンが○○○だったら……”というコンセプトで、細部までバットマン的な要素にこだわったデザイン……ある意味バカバカしいともいえるアイディア(失礼!)に取り組む、徹底的な姿勢……トップに立つプロの凄さを垣間見ることができます。

あ、ちなみに日本オリジナルのふろくとして、「邦訳“バットマン”の手引き」も収録されています。小社刊行のバットマン作品を時系列と内容で、できるかぎりわかりやすく並べた力作年譜。ぜひお役立てください。

本書を読んで、コミック史を自在に行き交うグラント・モリソンの語りに魅了された方におすすめなのが、『バットマン:ブラックグローブ』。1950年代の忘れられたスーパーヒーロー・チーム“ヒーロークラブ”を、思いも寄らぬ形で蘇らせています。作画にはアラン・ムーアとのプロメテア』日本版発売も間近に迫るJH・ウィリアムズⅢも参加


そしてカバーアートを通じてアンディ・キューバートに興味を持った方には、本編の作画を手がけた『バットマン・アンド・サン』を……とも思いましたが、あえてお兄さんのほうを。『スーパーマン:ラスト・サン』では、スーパーヒーロー映画の古典、1978年版『スーパーマン』の監督リチャード・ドナーと、いまやDCの重鎮となったジェフ・ジョーンズ(かつてドナーのインターンでした)の脚本による怒涛のストーリーを、アダム・キューバートが見事に活写しています。兄弟の画風を比べるのも、アメコミらしいマニアックな楽しみかと。 


バットマン新サーガ第二章もいよいよ大詰め。物語はグラント・モリソンの手を離れ、さまざまな作家チームの手によって展開されます。来月発売の最終巻『バットマン:ブルース・ウェインの選択、ぜひお楽しみに。




ではでは、今日はこのへんで。


(文責:中沢俊介

2014年3月24日月曜日

超大作『アルティメッツ』に続刊が登場!!

こんにちは!

まるで何かに大はしゃぎをしているような勢い抜群のカバーイラストが(一部で)おなじみの、『アルティメッツ 2』がついに刊行されました! 評判も上々のようで、担当としても嬉しい限りです。
▲『アルティメッツ 2』
マーク・ミラー[作] ブライアン・ヒッチ[画]
定価:本体3,800円+税
●小社より発売中●
そこで、今回はより多くの方にこの“あらゆる意味で超ド級の作品”をお手にとっていただくべく、その魅力の一端をご紹介させていただきたいと思います。

ちなみに“アルティメッツ”というのはヒーローたちが結成したチームの名称です。アルティメッツとは別世界のアベンジャーズであり、彼らの活躍を描いた作品が前作『アルティメッツ』、そして今作『アルティメッツ 2』なのです。

本書を知っていただくためには、映画『アベンジャーズ』の説明が欠かせません。まずはそこから言及させていただきましょう。


映画『アベンジャーズ』の“原典”にして“原点”

「日本よ、これが映画だ。」
2012年8月、挑戦的なキャッチコピーとともに上陸した映画『アベンジャーズ』。
マーベル・シネマティック・ユニバースという新たな世界観を構築すべく、2008年公開の映画『アイアンマン』の製作時から綿密に準備されてきたこの作品は、数々の公開記録を塗り替え、『アバター』『タイタニック』に続いて歴代3位となる15億ドル超の世界興行収入を打ち立てました。もちろん、この日本でも大ヒットを記録し、アメコミのすそ野が大きく広がったことは記憶に新しいところです。

そして、この映画の“原典”にして“原点”といえるのが、マーク・ミラー(ライター)とブライアン・ヒッチ(ペンシラー)のコンビが世に送り出した超大作コミック『アルティメッツ』です。どこが“原典”にして“原点”なのか、ということは『アルティメッツ』をお読みいただければ分かると思います。

チームのメンバーたちを束ねるのは平和維持組織シールドの長官、サミュエル・L・ジャクソンにそっくりなニック・フューリー(将軍)です。そして、チームの中心メンバーとなるのはキャプテン・アメリカ、アイアンマン、ソー、ハルク、ブラック・ウィドウ、ホークアイ。まさに映画『アベンジャーズ』でチームを組んだヒーローたちが本書で活躍しているわけですね(コミックには他のヒーローもいますが、後述します)。

従来のコミックでは白人だったニック・フューリーをサミュエル・L・ジャクソンが演じたり、キャプテン・アメリカは本作の設定やコスチュームデザインが映画のベースになったりと、さまざまな面で本作のアイデアがマーベル映画に影響を与えています。


とにかく“ヤバイ”登場人物たち

しかしながら、それでも本書が映画『アベンジャーズ』の“原作”とは呼べないことは、読者の誰もが賛同してくださることでしょう。映画とコミックではストーリーが異なっているから……なんて理由は、些細なことです。一番違うのはキャラクター性そのもの。できる限りオブラートに包んで表現するなら「本書の登場人物は全員、ヤバイ奴ら」なのです。

キャプテン・アメリカ(スティーブ・ロジャース)は兵士そのものであり、愛国心の塊で、目的のためなら手段を選びません。

アイアンマン(トニー・スターク)は、比較的映画のイメージに近いかもしれません。映画と同様にエキセントリックな性格であり、アルコール依存症などの問題も抱えてはいるのですが、周囲のメンバーがヤバ過ぎてむしろ本書では一番の常識人に見えてしまうことも。ただ、アイアンマン・スーツのデザインは映画等とはかなり異なっています。

ソーは自称雷神です。あくまで“自称”であり、周囲からは“自分が神様であるという妄想を抱えた、精神異常者”と思われています。

ハルク(ブルース・バナー)に至っては、間違ってもヒーローと呼んではいけないレベルの殺戮モンスターとなり、シャレにならない大虐殺事件を起こしてしまいます。ちなみに、バナーに戻ったときも嫉妬のとりこであります。

ブラック・ウィドウ(ナターシャ・ロマノフ)は映画よりもだいぶ口と態度が悪く、ホークアイ(クリント・バートン)は映画よりもややお調子者の印象になるかと思います。

そして、アルティメッツには映画にはまだ登場していないヒーローたちも参加しています。

ジャイアントマン(ハンク・ピム)は、本書を読んだすべての読者に一番強い爪あとを残したキャラクターだろうと思われます。有能な科学者であり、人体を巨大化する薬品を開発してジャイアントマンというヒーローとしてチームに参加するのですが、彼の本質はそんなことでは語りきれません。原作や『アルティメッツ 2』では、蟻の大きさに体を縮めて蟻と意思疎通ができる“アントマン”という姿も持っています。このアントマンは、現在映画化中です。

ワスプ(ジャネット・ピム)は、ハンク・ピムの妻であり、体を縮小して羽虫のように飛行したり、電気ショックを発することができる能力を持っています。彼女は(おそらく本書とはまったく違う設定で)4月から始まるアニメ『ディスク・ウォーズ:アベンジャーズ』にも登場!

スカーレット・ウィッチ(ワンダ・レーンシャー・マキシモフ)クイックシルバー(ピエトロ・レーンシャー・マキシモフ)は磁界王マグニートーの子どもで双子の姉弟。ワンダは可能性を操る魔法を使え、ピエトロは超スピードで移動できます。二人は、映画『アベンジャーズ 2』に登場するようですね。


“別世界”とは?

さて、映画と『アルティメッツ』の類似点と相違点はなんとなくお分かりになったのではないかと思いますが、そもそも冒頭に書いた“別世界のアベンジャーズ”とはどういう意味なのでしょうか? ご存知の方も多いとは思いますが、本書はマーベルが2000年代から立ち上げた新しいコミックのライン「アルティメット・ユニバース」の中心タイトルの一つです。

アメコミの人気キャラクターはその誕生から数十年にもわたって連載が続きます。たとえば原作コミックでアベンジャーズというチームが結成されたのは1963年(メンバーはアイアンマン、ソー、ハルク、アントマン、ワスプ)。すでに50年以上もの年月がたっているのです。長年の連載でストーリーは複雑化し、キャラクターもマンネリ化し、新たな読者が入り込むことが難しい状況になりました。

そのため、これまでのストーリーやキャラクターをリセットして、オリジナルの物語とは違うパラレルワールドの世界の物語が作られることになります。その試みの一つとして作られたのが、パラレルワールドの一つ「アルティメット・ユニバース」なのです。「アルティメット・ユニバース」ではさまざまな人気キャラクターが一から語りなおされているため、予備知識のない新しい読者でも入り込みやすい作品が生まれました。さらには世界観そのものが違うため、オリジナルではできないような実験的な試みができることが魅力となりました。


『アルティメッツ』

最強のチーム“アルティメッツ”の結成と、人類を護る壮大な戦いを描いた全376ページの超大作です。しかしながら、物語の冒頭から中盤で描かれるのは、ヤバイ登場人物たちの異常な人間関係が中心なのです。どろどろした嫉妬や疑念、内紛……それらの裏側で進行していた決定的な危機。
▲『アルティメッツ』
マーク・ミラー[作] ブライアン・ヒッチ[画]
定価:本体3,200円+税
●小社より発売中●
前半でどろどろした人間くさい姿が描かれているからこそ、彼らが負ければ人類が滅亡するという究極の戦いに赴くヒーローたちの姿は、信じられないほどカッコいいのです。しかし、その一方で、読者の皆さまはこう思うはず。

「ピムがクズ」であると……。


 『アルティメッツ 2』

そして続編となる今作は、前作からすべてがパワーアップした超ド級の大作です! 全480ページの分厚さと重量感も迫力十分ですが、中身はそれ以上にド迫力!!
▲『アルティメッツ 2』
マーク・ミラー[作] ブライアン・ヒッチ[画]
定価:本体3,800円+税
●小社より発売中●
前作で人類を救ったアルティメッツですが、人間関係は前作以上にこじれてどろどろの状態……。世間からの非難や、チームの内部にひそむ裏切り者の疑惑によって、チームに崩壊の危機が訪れます。見え隠れする“偽りの神、ロキ”の存在。読者も、いったい何が真実なのか分からないまま、アルティメッツのメンバーたちとともに怒涛の状況に飲み込まれていきます。

そして、迎える強力な敵たちとの戦い。前作では他のメンバーの影に隠れていたホークアイやピエトロ、ワンダの活躍に心を揺さぶられるはずです。最後に気になるピムの動向ですが……やはり期待を裏切らないと思います(笑)。

ともかく映画を見ているかのように、いえ、映画以上に壮大な作品のすばらしさに、読後は最高のカタルシスを得られるはずです!

『アルティメッツ』『アルティメッツ 2』はそれぞれ1冊で完結していますので、片方だけでも十分楽しめます。しかし、もちろん両方を読んでいただければ作品の魅力を十二分に味わっていただくことができると思います。

実は原書ではライターやアーティストが交代して、その後も『アルティメッツ 3』『アルティメイタム』と作品が続いていきます。これまた物議を醸すようなとんでもない方向へと物語が展開していくのですが、それについては別の機会に……。

兎にも角にも『アルティメッツ』と『アルティメッツ 2』は、編集担当として自信を持っておすすめできる最高の娯楽作です。ぜひ、お手にとっていただけたら、これほど嬉しいことはありません。


※このブログの内容については、『アルティメッツ』『アルティメッツ 2』の翻訳を担当していただいた光岡三ツ子さんの作品解説等を一部参考にさせていただきました。




(文責:佐藤学)

2014年3月17日月曜日

ホームズvsゾンビの異色作『ヴィクトリアン・アンデッド』

「アメコミ魂」の読者の皆様、こんにちは!

いい意味で「何でもあり」なのがアメリカン・コミックスの世界。

マーベル・コミックスにしろ、DCコミックスにしろ、死んだはずのキャラクターが復活することも日常茶飯事で、歴史改変も多い。アメリカン・コミックス、特にマーベルやDCには多種多様なスーパーパワーを備えたキャラクターが存在し、なおかつ多元宇宙や並行世界のあるユニバースがあるからこそ、「時空を操作して生き返った」「魔術によって改変した」「生き返ったのではなく、異次元で生きていた同じキャラクターが登場した」など様々な角度で物語を作ることができるのだと思います。

また日本のマンガとは異なり、いわゆるアメコミは、一つの作品に複数のライター(脚本家)が関与することが多いので、多種多様なアイデアが生み出されるのかもしれませんね。まあ、半世紀以上も一つのキャラクターが第一線で活躍しているのだから、読者を飽きさせないためにも多少の改変は必要不可欠なのかも・・・・・・。


■アメコミの醍醐味「クロスオーバー」

さて、そんな魅力的なアメコミの世界で、いっそう読者をワクワクさせるのが「クロスオーバー」ではないでしょうか。クロスオーバーとは、乱暴に言えば、コラボレーション企画。つまり、ある作品のキャラクターが別の作品に登場して、その別作品のキャラクターと共演することのことを指します。昨今のマーベル映画を例にすると分かりやすいかと思います。単独の映画に主役として登場していたハルクやアイアンマン、キャプテン・アメリカ、ソーなどのキャラクターがそれぞれのキャラクターの設定を変更せず、映画『アベンジャーズ』に結集する。これもクロスオーバーの一つです。まさに「夢の競演」ですよね。

当然、コミックもしかりです。『スパイダーマン』を読んでいて、ウルヴァリンやファンタスティック・フォーが登場し、物語が進んでいく。アメコミでは、昔からあった手法ですが、日本のマンガに慣れている人は少し驚いてしまうかもしれません。とはいえ、日本でも過去を紐解けば多くのクロスオーバー作品があり、映画でいうと最近では『ルパン三世vs名探偵コナン THE MOVIE』などはクロスオーバー作品といえるのでしょうね。

(これぞアメコミの醍醐味だ!とか言いながら、小社では大型クロスオーバーの邦訳コミックをあまりやっていないので矛盾を感じますが……まあ、一般論ということで)


■アメコミでクロスオーバー作品が多い理由

アメコミでクロスオーバー作品が多いのは、スパイダーマンやアイアンマンなどの各キャラクターの権利が作家ではなく、多くは出版社に帰属しているため、出版社側の意向で物語が構想しやすいから、というのも理由の一つだと思います。また日本のように○○○先生の『○○○』といった具合に、作品やそのキャラクターを描く作家が決まっているのではなく、権利が作家に帰属していないゆえ、様々なキャラクターを様々なアーティストが描けるのもクロスオーバー作品が多く生み出される理由の一つではないでしょうか。

また大前提として、それらのキャラクターは同じユニバースに存在しているという設定があるので、ある程度自由に作品の枠を越えることができる。だから前述の「夢の競演」が実現できるのでしょう。とはいえ、大人の事情で共演ができないこともあるので、同じコミックス会社のキャラクターだから何がなんでも自由だというわけではないと思いますけど・・・・・・。

ちなみに厳密にいえば、アメコミの世界では、あるキャラクターのタイトル作品にカメオ的に別のキャラクターが登場することはクロスオーバーとはいわず、単なるゲスト出演といわれることが多いです。アメコミでいうクロスオーバーとは、どちらかというとクロスオーバー・イベントのことを指します。クロスオーバー・イベントとは、規模の大小はありますが、たとえば『バットマン:梟の夜』のように、それぞれの月刊誌で、本来は別タイトルに登場するキャラクターがそれぞれ共演し、物語が構成される特別号的なコミックのことをいいます。まあ、あまり深く考えなくていいことだと思いますが、とりあえず、ここでは「ある作品のキャラクターが(その物語のバックグラウンドも背負って)別の作品のキャラクターと共演する」のがクロスオーバーだということで進めましょう。


■読者の夢が実現する「VSもの」

アメコミ読者の皆様は、同じコミックス会社の世界観で進行するクロスオーバー作品にはすでに免疫があると思いますが、アメコミのクロスオーバー作品には、コミックス会社やジャンルを超えた作品が数多くあります。たとえば、DCキャラとマーベルキャラがバトルしたこともあるし、スーパーマンだってモハメド・アリと闘ったことがあるし、アベンジャーズだってゴジラと戦ったこともある。エイリアンVS.プレデターもそうだろう「VSもの」のクロスオーバー作品はけっこうありますよね。あ、「VSもの」といえば、シャーロック・ホームズとゾンビとの戦いを描いた『ヴィクトリアン・アンデッド シャーロック・ホームズvs.ゾンビ』も「VSもの」の一つだ(ちょっと白々しいですね笑)。

……う~ん、前置きが長くなり、さらにこれをクロスオーバー作品というのは無理があるかもしれませんが、「VSもの」というくだりでようやく繋がったところで、今回はこの異色コミックを紹介させてください!

▲『ヴィクトリアン・アンデッド
シャーロック・ホームズvs.ゾンビ』
イアン・エジントン[作] デイビッド・ファブリ[画]
定価:本体2,200円+税
●小社より発売中●
『ヴィクトリアン・アンデッド シャーロック・ホームズvs.ゾンビ』の企画は、ご自身もシャーロッキアンである翻訳者の北原尚彦氏の持ち込み企画で、翻訳者の堺三保氏の紹介によって実現したものです。ホームズにも固定ファンがいて、ゾンビにも固定ファンがいる。「たしかにそうですが……愛好家の方々がこれを受け入れてくれるだろうか……」。提案を受けてから一年近く悩んでしまいましたが、色々悩んだ挙句、“娯楽作品”としてファンは受け入れてくれるのではないかと結論を下し、刊行することに決めました。



■ちょっとした裏話

結果、コナン・ドイル作品の翻訳も手掛けた北原尚彦氏が翻訳されているので、違和感なくファンには受け入れられ、他方、原作に精通していない読者のためにも解説でフォローしてあるので、読者の評判は上々でした。また、トビラ画(原書ではカバーアート)には『ウォーキング・デッド』の作画も手掛けたトニー・ムーアがホームズのゾンビ姿を描いているので(注:本書はホームズがゾンビになる話ではない)、ゾンビファンにもある程度リーチしたのではないかと思っています。さらに時代背景的には、スチームパンク的な要素もあるので、シャーロッキアン、ゾンビファン、スチームパンクファンには堪らない一作だ!なんて、勝手に思っております。

話は逸れてしまいますが、賛否両論があったにせよ、『ヴィクトリアン・アンデッド シャーロック・ホームズvs.ゾンビ』のタイトルロゴは、いつもの邦訳アメコミのように英語ロゴではなく、日本語ロゴを新たにデザインすることにこだわってみました。最近、小社で刊行している邦訳アメコミのカバー周りのデザインを担当しているバナナグローブスタジオさん(『週刊少年ジャンプ』など集英社さんの作品を多く手掛けているデザイン会社)にロゴのデザインをしてもらったのですが、この時の経験が同じく日本語ロゴをメインにした『デッドプール:マーク・ウィズ・ア・マウス』にも活かされたと思います。

ちょっと邦題が長いので、シンプルに『シャーロック・ホームズvs.ゾンビ』にすればもっとインパクトがあったのかもしれないなと、たまに後悔しますがね(笑)。


■「アンデッド」と「ゾンビ」の違い

タイトルの中に「アンデッド」という言葉と「ゾンビ」という言葉がありますが、「アンデッド」とは、“すでに生命が途絶えたにもかかわらず生きている怪物の総称”で、日本では「不死者」と訳されることがあります。「アンデッド」はそのようなものの総称なので、“腐乱死体の怪物”である「ゾンビ」「アンデッド」のなかの一つなんですよね(ヴードゥー教と関わる本来の意味での「ゾンビ」ではなく、ここでは一般的なものを指す)。不死者である「アンデッド」の種類にはいくつかあって、皆さんがよく知っている「ヴァンパイア(吸血鬼)」も「アンデッド」の一つです。また「ゾンビ」は、「リビングデッド(生ける屍)」とも呼ばれることがありますが、これは「ゾンビ」に限らず、「マミー(ミイラ男)」や「スケルトン」など“死体”をもとにしている“アンデッド”の総称になります。まあ、“アンデッド≧リビングデッド≧ゾンビ”って感じなんでしょうかね・・・・・・。ちなみに、「アンデッド」のなかには“霊体”をもとにしている「ホーント」などもあります。興味のある方はさらに調べてくださいね!


■とにかく面白いのでぜひ!

『ヴィクトリアン・アンデッド シャーロック・ホームズvs.ゾンビ』についてもう少しだけ触れると、本書は2010年にワイルド・ストームから刊行されたアメリカン・コミックスの邦訳版で、原作はイアン・エジントン、作画はダヴィデ・ファッブリが担当したものです。ホームズやワトスンはもちろん、ハドスン夫人、レストレード警部、モリアーティ教授、ホームズの兄であるマイクロフトも大活躍します。もちろん、ゾンビも登場します。

1854年3月、彗星がロンドン上空を通過したことにより奇病が発生した……そして時は1898年。死体が突如として人に襲い掛かる怪事件が発生する。ホームズとワトスンはこの事件の調査に乗り出すのだが……。もう、ここから先は言えないのですが(笑)、とにかく面白いので、騙されたと思って手に取ってほしい作品です。それと、もう一つ。しばらくすると入手しづらくなるかもしれないので、興味のある方は今のうちにぜひご注文ください!

ではまた!


(文責:山本将隆)

2014年3月3日月曜日

モリソンバッツ第二部『バットマン&ロビン』を激推し!

こんにちは!

先週ついに発売された『バットマン&ロビン』。みなさんご覧いただけましたでしょうか?
あまりの厚み(と、もしかしたら値段)に思わずためらってしまった方もいるはず。そんなみなさんに向けて、今回は本作品の魅力をさらにもうひと押し、アピールしてみたいと思います。「またかよ!」と言わずにどうぞお付き合いを。それだけの魅力お値打ちがある作品なんです
『バットマン&ロビン』
グラント・モリソン[作]/フランク・クワイトリー他[画]
定価:3,800円+税
●小社より好評発売中●
まずはやっぱりこの厚さ! 一見カジュアルな装丁ですが、総ページ数496ページと、ここ最近小社で刊行されたアメコミのなかでも最厚となっております。というのも、本書はもともと3冊の単行本だったところを1冊にまとめた“アブソリュート・エディション”が底本になっているのです(原書の画像や、この作品に至るまでのストーリー展開についての情報は前回のブログをぜひご覧ください)。


アブソリュート・エディション”についてもう少しお話を。“アブソリュート・エディション”とは、DCコミックス選りすぐりの名作のみに許される、豪華版の出版フォーマットです。たとえば小社では『ウォッチメン』『バットマン:ダークナイト』『キングダム・カム 愛蔵版』『バットマン:ハッシュ 完全版』などがそちらの版を底本としています。つまり『バットマン&ロビン』も、比較的最近の作品ですが、格としてはすでにこれらの名作群と肩を並べている、ということになります。


また、この厚みには内容的な必然性もあります。本書は、ライターであるグラント・モリソンの同誌における“ラン”を完全収録しているのです!


ラン(run”とは何か?

アメコミでは同じ雑誌がライターやアーティストを変えつつ延々と続くことがよくあります。だから区切りとなる単位として、一定の作家チーム、もしくは一人のライターが一つの雑誌を担当している期間をよく“ラン”と呼ぶのです。たとえば1980年代だと、アラン・ムーアによる『スワンプシング』、クリス・クレアモントジョン・バーンのコンビによる『X-MEN』などが名作ランと言われています(ちなみに、複数の号〔または雑誌〕にまたがったひとまとまりのエピソードは“ストーリーライン〔storyline”“ストーリーアーク〔story arch”などと呼ばれます)。

2009年夏にグラント・モリソンによって立ち上げられた新雑誌『バットマン&ロビン』ですが、彼が直接関わっているのは本書に収録されている第16号まで。以降は別の作家チームに引き継がれます。もちろん、モリソンによるバットマンの物語は2010年冬に再び彼が立ち上げた新雑誌『バットマン・インコーポレイテッド』に続きます。また『バットマン・アンド・サン』をはじめとする新サーガ第一部から持ち越している伏線もそこここにあります。
ですが、一人の作家によって一貫した流れで展開される“ラン”を余すところなく収録した本書は、モリソンのエッセンス、バットマンというキャラクターに託したビジョンが、日本人にとってもっとも把握しやすい形で集約された1冊といえるでしょう。

アメコミの醍醐味の一つとして、複数の雑誌にまたがって大事件が起こる“クロスオーバー”があります。横の広がりである“クロスオーバー”も、日本人にとってなかなか満喫することができない刊行形態ですが、縦の流れであるラン”を一気読みできるのも、また貴重な機会かと。


そしてモリソンと組んだアーティストも、個性と実力を兼ね備えた、いずれ劣らぬ名手ぞろい

冒頭を飾るのはモリソンとの名コンビで知られるフランク・クワイトリー。エピローグ(……と次へのプロローグ)的な読み切り『バットマンの帰還』の作画はデイビッド・フィンチ。この二人の“スーパースター”級アーティストに挟まれて、エピソードごとに異なるスタイルを持った気鋭のアーティストたちが腕を競っています(キャメロン・スチュアートフレイザー・アービングなど“モリソン組”ともいえるアーティストの起用もファンには嬉しいところ)。

それにしても、各々の絵柄の違いが半端じゃないことに驚かされます。グリム&グリッティな劇画から、英国的な湿り気を帯びたカートゥーンふう、そして表現主義に迫らんばかりの絵画調……しかも、どれも完成度が高い! アメコミの連載といえば、どちらかというとインカーやカラリストを揃えたりして、ペンシラーが変わっても統一感を出そうとするものですが、同じ雑誌の連載とは思えないくらいの振れ幅です。一方モリソンの物語も、それぞれの画風に合わせたテーマを打ち出しているので、さらに感嘆! そのうえ、クライマックスの第16章では作画的に驚くべき展開が待っています。通して読み進めることで初めて発動する、モリソンの語りの魔法。これはぜひ実際に読んで体験していただきたいところです。

というわけで、作家的気質を持ったカリスマ・ライターが一流のアーティストと組んで本気で挑んだ極上のコミック・エンターテインメント! グラント・モリソンのエッセンスが詰まった1冊! 『バットマン&ロビン』、お勧めです。
本書を読んでフランク・クワイトリーの個性的なアートが気に入ったみなさんにおすすめのコミックは『JLA:逆転世界』。グラント・モリソンとの抜群のコンビネーションが、(本書に比べると)お手軽に楽しめます。

そしてデイビッド・フィンチの“これぞアメコミ!”な重厚な絵柄が気に入った方々には、『ダークナイト:姿なき恐怖』を。同書で彼は脚本にも関わり、セルフプロデュースによる魅力が満喫できます。そして、今回ひときわ異彩を放っていたフレイザー・アービングが気に入った方は、もしかしたらすぐに再会できるチャンスが……。


来月刊行予定の新サーガ第二部第二弾バットマン:ブルース・ウェインの帰還』。 その頃ブルース・ウェインは……?”という視点で、ブルース・ウェインの奇想天外な冒険が楽しめる作品なのですが、フレイザー・アービングも作画陣の一人として再登板しています!



それでは今日はこのへんで。


(文責:中沢俊介)