2014年3月3日月曜日

モリソンバッツ第二部『バットマン&ロビン』を激推し!

こんにちは!

先週ついに発売された『バットマン&ロビン』。みなさんご覧いただけましたでしょうか?
あまりの厚み(と、もしかしたら値段)に思わずためらってしまった方もいるはず。そんなみなさんに向けて、今回は本作品の魅力をさらにもうひと押し、アピールしてみたいと思います。「またかよ!」と言わずにどうぞお付き合いを。それだけの魅力お値打ちがある作品なんです
『バットマン&ロビン』
グラント・モリソン[作]/フランク・クワイトリー他[画]
定価:3,800円+税
●小社より好評発売中●
まずはやっぱりこの厚さ! 一見カジュアルな装丁ですが、総ページ数496ページと、ここ最近小社で刊行されたアメコミのなかでも最厚となっております。というのも、本書はもともと3冊の単行本だったところを1冊にまとめた“アブソリュート・エディション”が底本になっているのです(原書の画像や、この作品に至るまでのストーリー展開についての情報は前回のブログをぜひご覧ください)。


アブソリュート・エディション”についてもう少しお話を。“アブソリュート・エディション”とは、DCコミックス選りすぐりの名作のみに許される、豪華版の出版フォーマットです。たとえば小社では『ウォッチメン』『バットマン:ダークナイト』『キングダム・カム 愛蔵版』『バットマン:ハッシュ 完全版』などがそちらの版を底本としています。つまり『バットマン&ロビン』も、比較的最近の作品ですが、格としてはすでにこれらの名作群と肩を並べている、ということになります。


また、この厚みには内容的な必然性もあります。本書は、ライターであるグラント・モリソンの同誌における“ラン”を完全収録しているのです!


ラン(run”とは何か?

アメコミでは同じ雑誌がライターやアーティストを変えつつ延々と続くことがよくあります。だから区切りとなる単位として、一定の作家チーム、もしくは一人のライターが一つの雑誌を担当している期間をよく“ラン”と呼ぶのです。たとえば1980年代だと、アラン・ムーアによる『スワンプシング』、クリス・クレアモントジョン・バーンのコンビによる『X-MEN』などが名作ランと言われています(ちなみに、複数の号〔または雑誌〕にまたがったひとまとまりのエピソードは“ストーリーライン〔storyline”“ストーリーアーク〔story arch”などと呼ばれます)。

2009年夏にグラント・モリソンによって立ち上げられた新雑誌『バットマン&ロビン』ですが、彼が直接関わっているのは本書に収録されている第16号まで。以降は別の作家チームに引き継がれます。もちろん、モリソンによるバットマンの物語は2010年冬に再び彼が立ち上げた新雑誌『バットマン・インコーポレイテッド』に続きます。また『バットマン・アンド・サン』をはじめとする新サーガ第一部から持ち越している伏線もそこここにあります。
ですが、一人の作家によって一貫した流れで展開される“ラン”を余すところなく収録した本書は、モリソンのエッセンス、バットマンというキャラクターに託したビジョンが、日本人にとってもっとも把握しやすい形で集約された1冊といえるでしょう。

アメコミの醍醐味の一つとして、複数の雑誌にまたがって大事件が起こる“クロスオーバー”があります。横の広がりである“クロスオーバー”も、日本人にとってなかなか満喫することができない刊行形態ですが、縦の流れであるラン”を一気読みできるのも、また貴重な機会かと。


そしてモリソンと組んだアーティストも、個性と実力を兼ね備えた、いずれ劣らぬ名手ぞろい

冒頭を飾るのはモリソンとの名コンビで知られるフランク・クワイトリー。エピローグ(……と次へのプロローグ)的な読み切り『バットマンの帰還』の作画はデイビッド・フィンチ。この二人の“スーパースター”級アーティストに挟まれて、エピソードごとに異なるスタイルを持った気鋭のアーティストたちが腕を競っています(キャメロン・スチュアートフレイザー・アービングなど“モリソン組”ともいえるアーティストの起用もファンには嬉しいところ)。

それにしても、各々の絵柄の違いが半端じゃないことに驚かされます。グリム&グリッティな劇画から、英国的な湿り気を帯びたカートゥーンふう、そして表現主義に迫らんばかりの絵画調……しかも、どれも完成度が高い! アメコミの連載といえば、どちらかというとインカーやカラリストを揃えたりして、ペンシラーが変わっても統一感を出そうとするものですが、同じ雑誌の連載とは思えないくらいの振れ幅です。一方モリソンの物語も、それぞれの画風に合わせたテーマを打ち出しているので、さらに感嘆! そのうえ、クライマックスの第16章では作画的に驚くべき展開が待っています。通して読み進めることで初めて発動する、モリソンの語りの魔法。これはぜひ実際に読んで体験していただきたいところです。

というわけで、作家的気質を持ったカリスマ・ライターが一流のアーティストと組んで本気で挑んだ極上のコミック・エンターテインメント! グラント・モリソンのエッセンスが詰まった1冊! 『バットマン&ロビン』、お勧めです。
本書を読んでフランク・クワイトリーの個性的なアートが気に入ったみなさんにおすすめのコミックは『JLA:逆転世界』。グラント・モリソンとの抜群のコンビネーションが、(本書に比べると)お手軽に楽しめます。

そしてデイビッド・フィンチの“これぞアメコミ!”な重厚な絵柄が気に入った方々には、『ダークナイト:姿なき恐怖』を。同書で彼は脚本にも関わり、セルフプロデュースによる魅力が満喫できます。そして、今回ひときわ異彩を放っていたフレイザー・アービングが気に入った方は、もしかしたらすぐに再会できるチャンスが……。


来月刊行予定の新サーガ第二部第二弾バットマン:ブルース・ウェインの帰還』。 その頃ブルース・ウェインは……?”という視点で、ブルース・ウェインの奇想天外な冒険が楽しめる作品なのですが、フレイザー・アービングも作画陣の一人として再登板しています!



それでは今日はこのへんで。


(文責:中沢俊介)