2014年3月17日月曜日

ホームズvsゾンビの異色作『ヴィクトリアン・アンデッド』

「アメコミ魂」の読者の皆様、こんにちは!

いい意味で「何でもあり」なのがアメリカン・コミックスの世界。

マーベル・コミックスにしろ、DCコミックスにしろ、死んだはずのキャラクターが復活することも日常茶飯事で、歴史改変も多い。アメリカン・コミックス、特にマーベルやDCには多種多様なスーパーパワーを備えたキャラクターが存在し、なおかつ多元宇宙や並行世界のあるユニバースがあるからこそ、「時空を操作して生き返った」「魔術によって改変した」「生き返ったのではなく、異次元で生きていた同じキャラクターが登場した」など様々な角度で物語を作ることができるのだと思います。

また日本のマンガとは異なり、いわゆるアメコミは、一つの作品に複数のライター(脚本家)が関与することが多いので、多種多様なアイデアが生み出されるのかもしれませんね。まあ、半世紀以上も一つのキャラクターが第一線で活躍しているのだから、読者を飽きさせないためにも多少の改変は必要不可欠なのかも・・・・・・。


■アメコミの醍醐味「クロスオーバー」

さて、そんな魅力的なアメコミの世界で、いっそう読者をワクワクさせるのが「クロスオーバー」ではないでしょうか。クロスオーバーとは、乱暴に言えば、コラボレーション企画。つまり、ある作品のキャラクターが別の作品に登場して、その別作品のキャラクターと共演することのことを指します。昨今のマーベル映画を例にすると分かりやすいかと思います。単独の映画に主役として登場していたハルクやアイアンマン、キャプテン・アメリカ、ソーなどのキャラクターがそれぞれのキャラクターの設定を変更せず、映画『アベンジャーズ』に結集する。これもクロスオーバーの一つです。まさに「夢の競演」ですよね。

当然、コミックもしかりです。『スパイダーマン』を読んでいて、ウルヴァリンやファンタスティック・フォーが登場し、物語が進んでいく。アメコミでは、昔からあった手法ですが、日本のマンガに慣れている人は少し驚いてしまうかもしれません。とはいえ、日本でも過去を紐解けば多くのクロスオーバー作品があり、映画でいうと最近では『ルパン三世vs名探偵コナン THE MOVIE』などはクロスオーバー作品といえるのでしょうね。

(これぞアメコミの醍醐味だ!とか言いながら、小社では大型クロスオーバーの邦訳コミックをあまりやっていないので矛盾を感じますが……まあ、一般論ということで)


■アメコミでクロスオーバー作品が多い理由

アメコミでクロスオーバー作品が多いのは、スパイダーマンやアイアンマンなどの各キャラクターの権利が作家ではなく、多くは出版社に帰属しているため、出版社側の意向で物語が構想しやすいから、というのも理由の一つだと思います。また日本のように○○○先生の『○○○』といった具合に、作品やそのキャラクターを描く作家が決まっているのではなく、権利が作家に帰属していないゆえ、様々なキャラクターを様々なアーティストが描けるのもクロスオーバー作品が多く生み出される理由の一つではないでしょうか。

また大前提として、それらのキャラクターは同じユニバースに存在しているという設定があるので、ある程度自由に作品の枠を越えることができる。だから前述の「夢の競演」が実現できるのでしょう。とはいえ、大人の事情で共演ができないこともあるので、同じコミックス会社のキャラクターだから何がなんでも自由だというわけではないと思いますけど・・・・・・。

ちなみに厳密にいえば、アメコミの世界では、あるキャラクターのタイトル作品にカメオ的に別のキャラクターが登場することはクロスオーバーとはいわず、単なるゲスト出演といわれることが多いです。アメコミでいうクロスオーバーとは、どちらかというとクロスオーバー・イベントのことを指します。クロスオーバー・イベントとは、規模の大小はありますが、たとえば『バットマン:梟の夜』のように、それぞれの月刊誌で、本来は別タイトルに登場するキャラクターがそれぞれ共演し、物語が構成される特別号的なコミックのことをいいます。まあ、あまり深く考えなくていいことだと思いますが、とりあえず、ここでは「ある作品のキャラクターが(その物語のバックグラウンドも背負って)別の作品のキャラクターと共演する」のがクロスオーバーだということで進めましょう。


■読者の夢が実現する「VSもの」

アメコミ読者の皆様は、同じコミックス会社の世界観で進行するクロスオーバー作品にはすでに免疫があると思いますが、アメコミのクロスオーバー作品には、コミックス会社やジャンルを超えた作品が数多くあります。たとえば、DCキャラとマーベルキャラがバトルしたこともあるし、スーパーマンだってモハメド・アリと闘ったことがあるし、アベンジャーズだってゴジラと戦ったこともある。エイリアンVS.プレデターもそうだろう「VSもの」のクロスオーバー作品はけっこうありますよね。あ、「VSもの」といえば、シャーロック・ホームズとゾンビとの戦いを描いた『ヴィクトリアン・アンデッド シャーロック・ホームズvs.ゾンビ』も「VSもの」の一つだ(ちょっと白々しいですね笑)。

……う~ん、前置きが長くなり、さらにこれをクロスオーバー作品というのは無理があるかもしれませんが、「VSもの」というくだりでようやく繋がったところで、今回はこの異色コミックを紹介させてください!

▲『ヴィクトリアン・アンデッド
シャーロック・ホームズvs.ゾンビ』
イアン・エジントン[作] デイビッド・ファブリ[画]
定価:本体2,200円+税
●小社より発売中●
『ヴィクトリアン・アンデッド シャーロック・ホームズvs.ゾンビ』の企画は、ご自身もシャーロッキアンである翻訳者の北原尚彦氏の持ち込み企画で、翻訳者の堺三保氏の紹介によって実現したものです。ホームズにも固定ファンがいて、ゾンビにも固定ファンがいる。「たしかにそうですが……愛好家の方々がこれを受け入れてくれるだろうか……」。提案を受けてから一年近く悩んでしまいましたが、色々悩んだ挙句、“娯楽作品”としてファンは受け入れてくれるのではないかと結論を下し、刊行することに決めました。



■ちょっとした裏話

結果、コナン・ドイル作品の翻訳も手掛けた北原尚彦氏が翻訳されているので、違和感なくファンには受け入れられ、他方、原作に精通していない読者のためにも解説でフォローしてあるので、読者の評判は上々でした。また、トビラ画(原書ではカバーアート)には『ウォーキング・デッド』の作画も手掛けたトニー・ムーアがホームズのゾンビ姿を描いているので(注:本書はホームズがゾンビになる話ではない)、ゾンビファンにもある程度リーチしたのではないかと思っています。さらに時代背景的には、スチームパンク的な要素もあるので、シャーロッキアン、ゾンビファン、スチームパンクファンには堪らない一作だ!なんて、勝手に思っております。

話は逸れてしまいますが、賛否両論があったにせよ、『ヴィクトリアン・アンデッド シャーロック・ホームズvs.ゾンビ』のタイトルロゴは、いつもの邦訳アメコミのように英語ロゴではなく、日本語ロゴを新たにデザインすることにこだわってみました。最近、小社で刊行している邦訳アメコミのカバー周りのデザインを担当しているバナナグローブスタジオさん(『週刊少年ジャンプ』など集英社さんの作品を多く手掛けているデザイン会社)にロゴのデザインをしてもらったのですが、この時の経験が同じく日本語ロゴをメインにした『デッドプール:マーク・ウィズ・ア・マウス』にも活かされたと思います。

ちょっと邦題が長いので、シンプルに『シャーロック・ホームズvs.ゾンビ』にすればもっとインパクトがあったのかもしれないなと、たまに後悔しますがね(笑)。


■「アンデッド」と「ゾンビ」の違い

タイトルの中に「アンデッド」という言葉と「ゾンビ」という言葉がありますが、「アンデッド」とは、“すでに生命が途絶えたにもかかわらず生きている怪物の総称”で、日本では「不死者」と訳されることがあります。「アンデッド」はそのようなものの総称なので、“腐乱死体の怪物”である「ゾンビ」「アンデッド」のなかの一つなんですよね(ヴードゥー教と関わる本来の意味での「ゾンビ」ではなく、ここでは一般的なものを指す)。不死者である「アンデッド」の種類にはいくつかあって、皆さんがよく知っている「ヴァンパイア(吸血鬼)」も「アンデッド」の一つです。また「ゾンビ」は、「リビングデッド(生ける屍)」とも呼ばれることがありますが、これは「ゾンビ」に限らず、「マミー(ミイラ男)」や「スケルトン」など“死体”をもとにしている“アンデッド”の総称になります。まあ、“アンデッド≧リビングデッド≧ゾンビ”って感じなんでしょうかね・・・・・・。ちなみに、「アンデッド」のなかには“霊体”をもとにしている「ホーント」などもあります。興味のある方はさらに調べてくださいね!


■とにかく面白いのでぜひ!

『ヴィクトリアン・アンデッド シャーロック・ホームズvs.ゾンビ』についてもう少しだけ触れると、本書は2010年にワイルド・ストームから刊行されたアメリカン・コミックスの邦訳版で、原作はイアン・エジントン、作画はダヴィデ・ファッブリが担当したものです。ホームズやワトスンはもちろん、ハドスン夫人、レストレード警部、モリアーティ教授、ホームズの兄であるマイクロフトも大活躍します。もちろん、ゾンビも登場します。

1854年3月、彗星がロンドン上空を通過したことにより奇病が発生した……そして時は1898年。死体が突如として人に襲い掛かる怪事件が発生する。ホームズとワトスンはこの事件の調査に乗り出すのだが……。もう、ここから先は言えないのですが(笑)、とにかく面白いので、騙されたと思って手に取ってほしい作品です。それと、もう一つ。しばらくすると入手しづらくなるかもしれないので、興味のある方は今のうちにぜひご注文ください!

ではまた!


(文責:山本将隆)