2016年1月25日月曜日

アメコミと音楽の幸福な関係

「アメコミ魂」をご覧の皆さま、こんにちは!

先週の土日は雪が降ると言われていましたが、冬空ではあったものの降雪もなく、お出かけには不便のない休日でしたね。筆者のことで恐縮ですが、先週の土曜日、幕張メッセで開催された「次世代ワールドホビーフェア’16 Winter」に出かけてきました。というのも、ShoPro Booksから刊行している「OHABOOK おはスタのことば遊び ババン!コトババーン」の販売ワゴンが出るということで、そのお手伝いをしてきました。会場は家族連れのお客さんで大盛況で、日本のコンテンツ業界の健在ぶりがうかがえました。

さて、今回の「アメコミ魂」は、アメコミと音楽にまつわるあれこれをご紹介していきたいと思います。

昨年夏、マーベル・コミックスでは、ヒップホップの名盤のジャケットカバーにオマージュを捧げたヴァリアントカバーのコミックを大量にリリースしました。ギャングスタ・ラップのパイオニアであるドクター・ドレーや、ニュースクールと言われる時代のトップランナーだったア・トライブ・コールド・クエスト00年代以降のギャングスタの筆頭である50セントなど、新旧織り交ぜたアーティストたちへオマージュが捧げられています。(詳細はこちら

そんなマーベル・コミックスのキャラクターのなかでも、よく音楽をネタにするのが、皆さんご存じのデッドプールです。とくに「マーベル・ナウ!」でリランチされたあとのシリーズは、音楽ネタのオンパレード。

例えば『デッドプール Vol.1:デッド・プレジデント』の102ページ3コマ目に「ウータン・クランの剣術使い」というセリフが出てきます。このウータン・クランというグループは、実在するヒップホップ・グループの名前です。彼らは香港カンフー映画の影響を受けていて、武術ネタを歌詞や曲名、アルバムタイトルに盛り込んでいることが特徴です。他にも70ページ5コマ目では、デッドプールが、デスメタルバンド、パンテラの『5ミニッツ・アローン』という曲をBGMとして脳内再生してくれと読者に語りかけたりもしています。

デッドプール Vol.1:デッド・プレジデント
ジェリー・ダガン、ブライアン・ポゼーン[作]
トニー・ムーア[画]
定価:1,800円+税
◆好評発売中!◆
そもそも“冗舌さ”が特徴のデッドプールは、音楽ネタに限らず、映画、コメディショー、セレブのゴシップ、政治ネタなど、大量のパロディをセリフのなかに盛り込んでいるので、翻訳家・高木亮さんの解説を参照しながら読むと、現在のアメリカのサブカルチャーへの理解が深まること請け合いです。

さて、アメコミと音楽にまつわるあれこれを語る上で、欠かすことができないのがアメコミ映画です。

現在のアメコミ映画の潮流は、おおまかにクリストファー・ノーランが確立したシリアス路線(DCエクステンデッド・ユニバース)と、映画版『アイアンマン』を2作目まで監督したジョン・ファブロージェームズ・ガンなどの新進監督を起用したエンターテインメント路線(マーベル・シネマティック・ユニバース)に分けられます。
※ジョン・ファブローは映画版『アイアンマン』の2作目までを監督した後、袂を分かっています。ジェームズ・ガンは『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』(2014年公開)の監督を務めました。

マーベル・シネマティック・ユニバースの快進撃の突破口となった『アイアンマン』(2008年公開)に大きく貢献したのが、ハードロック/ヘビーメタルです。同作の予告編冒頭に流れる印象的なギターリフは、言わずとしれたAC/DCの名曲『バック・イン・ブラック』(予告編はこちら)のもの。このギターリフのイメージが、本作では全編通して貫きとおされています。エンディングでは、タイトルもそのものズバリのブラックサバスの名曲『アイアンマン』のインストバージョンが使われています。

ちなみにAC/DC2010年に発表したアルバム『アイアンマン2』は、同バンドの実質上のベストアルバムであるだけでなく、そのタイトル通り、映画『アイアンマン2』(2010年公開)のサウンドトラックでもあります。同アルバムに収録されている『シュート・トゥ・スリル』は、映画版のメインテーマに使われていました。

アイアンマン』の例を取っても明らかなように、アメリカ的なエンターテインメント色を強調しているのが、マーベル・シネマティック・ユニバースの特徴と言えるでしょう。

一方、DCエクステンデッド・ユニバースはどうでしょうか?

クリストファー・ノーラン監督作『ダークナイト』(2008年公開)によって確立されたシリアス路線。その方向性を盛り上げるのは、重厚な映画劇伴です。

バットマン ビギンズ』(2005年公開)、『ダークナイト』(2008年公開)、『ダークナイト ライジング』(2012年公開)の三部作を通して音楽を担当したのは名匠ハンス・ジマー1994年に『ライオン・キング』でアカデミー作曲賞、ゴールデングローブ賞の音楽賞に輝き、その後も『グラディエーター』(2000年公開)でゴールデングローブ賞の音楽賞に再度輝くなど、高い評価を得ている劇伴作曲家です。

シンセサイザーとオーケストラを組み合わせた重厚な音作りが特徴で、近年は『インセプション』(2010年公開)、『インターステラー』(2014年公開)など、クリストファー・ノーランと手を組む機会が増えています。ちなみに、今年325日に公開される『バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生』でもスコアを手がけています。

もともとDCコミックスを原作とする映画は、1978年公開のリチャード・ドナー監督、クリストファー・リーブ主演の『スーパーマン』でも、巨匠ジョン・ウィリアムズが手がけるなど、映画劇伴との相性がよいようです

マーベル・シネマティック・ユニバース=(広義の)ポップス”、“DCエクステンデッド・ユニバース=映画音楽”という傾向が、今後の映画の展開でどのように変化するのか、あるいはしないのか。その辺りに注目してみるのも面白いと思います。

今回は、「アメコミと音楽」という視点で記事をお届けしました。普段から読み慣れているアメコミも、こういう見方をしてみると、また違った魅力を再発見できるのではないでしょうか?

それでは今日はこの辺で。また来週お会いしましょう! 


(文責・山口侘助)