2018年6月19日火曜日

シリーズ最高傑作『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』本日発売



アメコミ魂をご覧の皆さま、こんにちは!
今月29日にいよいよりSWスピン・オフ作品第2弾『ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー』が公開になります。

アメリカでは当初期待されていたほどの興行収入をあげられていないなどのネガティブな情報も入ってきていましたが、先週行われたジャパン・プレミアム&レッドカーペットに参加した人のTweetを見てると、「不安を吹き飛ばす内容だった」とかなり絶賛されているようなので安心しました。

個人的には、オールデン・エアエンライクがどんなハン・ソロを演じるのか、「ゲーム・オブ・スローンズ」でドラゴンの母・デナーリスを演じたエミリア・クラークの役回り、そして「結末がビックリらしい」と誰かが言っていたので、その辺りに注目して観たいと思います。

さて、ハン・ソロが待ち遠しいスター・ウォーズですが、SWスピン・オフ第1弾作品にして、いまだファンの間でSW史上最高傑作の呼び声が高いのが『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』です。

そんなローグ・ワンの待望のコミックがいよいよ発売されます!

ジョディ・ハウザー他[作]
エミリオ・レイソー他[画]
定価:本体2,200円+税
●2018年06月20日頃発売●


本日のアメコミ魂では、ローグ・ワンの人気の秘密を改めて考察するとともに、コミック版ならではの見どころをお伝えしたいと思います。


映画ローグ・ワンの魅力


「シリーズ最高傑作」「泣けるスター・ウォーズ」

映画が公開されたとき多くのファンが大絶賛しましたが、なぜあれほどまでにローグ・ワンは多くの人の気持ちを打ったのでしょうか。

SW作品にしてはそこまで派手なスペースバトルがあるわけでもなく、またジェダイとシスの超人的なバトルシーンもありません。

個人的にはローグ・ワンは2017年映画「ダンケルク」に近い、とても淡々とした印象を持ってます。

ルーカスフィルム・ストーリー部門のキリ・ハート氏も、「ローグ・ワンの最初のプロットを見たとき、第二次世界大戦にとても近い雰囲気を感じた」とインタビューで語っています。

二つの映画に共通する要素は何でしょうか。

それは"リアリティ"だと私は思います。

さらにその"リアリティ"の中身は、2つあると思います。

一つは、活躍するのが我々と同じ"普通の人間"であるということです。

確かに、我々一般人にない特殊能力を持ったスーパーヒーロー(ジェダイもそうです)の活躍は見ていてスカッとします。

しかし、人の心を打つのは「普通の人間が英雄的な行動をとったとき」だと思います。
普通の人が何かを犠牲にして頑張る、そこに人は尊さを感じ、感動するのではないでしょうか。

"リアリティ"の二つ目は、「反乱同盟軍はただ"善"ではなく、帝国軍もただ"悪"ではない」という点です。

ローグ・ワンで、ジンを騙して彼女の父であるゲイレン・アーソを殺すのは同盟軍の戦闘機です。
また、ヤヴィン4でローグ・ワンを結成する際にキャシアン・アンドーが語ったように、彼ら同盟軍情報将校達は、スパイ、破壊工作、暗殺など、反乱同盟軍のために数々の汚い仕事に手を染めてきました。

反乱同盟軍といえばレイア姫の持つ高潔なイメージが強いですが、その裏では数々の醜い現実があるのです。

一方帝国軍といえば、皇帝やダース・ベイダー、ターキン総督が持つ冷酷で非人間的な印象が強いです。
しかし本作で描かれた帝国軍兵士は、帝国に反旗を翻したゲイレン・アーソやボディー・ルックはもちろんのこと、帝国のためにデス・スター開発に邁進するオーソン・クレニックも、極めて人間くさい人物として描かれています。

善悪二元論で線引きできるほど世界は単純じゃない。
そんな"リアリティ"が、ローグ・ワンに人が共感する理由だと思います。


映画の魅力を見事に再現したコミック


このような映画の魅力は、コミックでも存分に発揮されてます。

例えば、主人公のジンが同盟軍最高司令部モン・モスマからソウ・ゲレロとの仲介役を頼まれるシーンで、父親が帝国の兵器開発をしていることについてどう思うか尋ねられた際、ジンは「政治的なことなんて考える余裕はなかった」と答えます。

また、ジンの同じ考え方が分かるシーンとして、ソウ・ゲレロから「帝国の旗が銀河全域にはためいてもいいのか?」と聞かれて「旗を見なければいいのよ」とにべもなく答える場面があります。

他のSWシリーズの主人公だったら、ルークにしても、アナキンにしても、レイにしても皆、自分の正義や主義主張を明確に持っていますが、ジンは政治的主張に無頓着です。

しかし、現実の私達の世界を見れば、むしろこちらの方が普通ではないでしょうか。

また、"普通の人"ということでいえば、バリバリの反乱軍情報将校であるキャシアン・アンドーですら同じです。

イードゥーでジンの父親であるゲイレン・アーソを殺そうとしたことをジンに詰られた際に、「いつどこで何をするか、誰もが自分で決められるわけじゃない」と反論します。

他のSWシリーズ、否それに留まらず多くの映画やコミックスやテレビドラマなど全般的に、登場人物は大抵自分の目的(それが善であれ悪であれ)を明確に持っていて、その目的に向けて行動します。

しかしこれも、私達の現実の世界を見ると、自分の目的を明確に持ってそのために行動する(できる)人の方が少数だと思います。

このようなリアルな人間らしい葛藤を抱えているのは帝国軍の人間も同じです。

デス・スターがジェダを破壊し見事テストに合格した際、開発責任者のオーソン・クレニックは「この成功は私の成功だ!あなたのじゃない!」とターキン総督に叫びます。

クレニック長官は自分の目的のためには大勢の命を何とも思わない冷酷で身勝手な人物です。
しかしそんな彼も見方を変えれば、デス・スター計画の現場責任者として、文字どおり自分の命を削って持てる能力と努力の全てを注ぎ込んできたといっても過言ではありません。

そんな彼だからこそ、その功績をターキン総督に横取りされそうになって思わず声をあげずにいられなかったのでしょう。
そこには善も悪もない、極めて人間らしい感情を持った普通の人間だけがいて、分かり易い"悪の権化"がいるわけではありません。


コミック・オリジナルシーン


このように映画の魅力を損なわず見事に再現しているコミック版ローグ・ワンですが、単なる映画のコピーではありません。

コミック版ならではの魅力としてまず、映画には描かれてない重要ないくつかのシーンがコミックには載っています。

例えば、冒頭、映画ではカットされたゲイレン・アーソがボディー・ルックにメッセージを託すシーンが描かれています。

また、イードゥーでボディー・ルックとK-2SOが帝国の貨物船を盗むため走っているシーンがあります。ここでボディー・ルックはK-2SOに「俺たちは同類だ。二人とも帝国の紋章付きだ。」と、二人のアイデンティティを端的に表現した重要なセリフを、象徴的なカットとともに語ります。

また、このやり取りを受けて、スカリフ上空でK-2SOがボディー・ルックに対し「再プログラムがうまくいってるなら、勇敢に戦えるはず」と励ますセリフは、ボディー・ルックだけでなくK-2SO自身にも当てはまる内容になってます。

他にもオリジナルシーンがいくつもあるので、映画と見比べて見ると面白いでしょう。


コミック版の演出


オリジナルシーン以外にも、コミックでは独自の演出が随所に施されていて、単なる映画アダプテーションを超えたコミック媒体ならではの作品として仕上がっています。

エピソードⅣオープニング・クロール

ローグ・ワンは、『スター・ウォーズ/新たなる希望』のたった数行のオープニング・クロールの文章からインスパイアされたという話は有名です。

コミック版ローグ・ワンでは、レイア姫がディスクを受け取った後、ページをめくると1ページまるまるエピソードⅣのオープニング・クロールが描かれて物語が終わってます。

この映画にはない演出で、ローグ・ワンとエピソードⅣが一続きの物語だと実感できます。


生死の問題

前半、ボーディー・ルックの亡命とデス・スター開発という極秘情報をもたらした内通者(ソウ・ゲレロの部下)をキャシアン・アンドーが殺して逃げる際、キャシアンは「まさに生死の問題だ」とつぶやくシーンがあります。

ここはコミックならではの演出が施されたシーンとなっています。

映画では、「内通者殺害」→「ボーディー・ルックの亡命」という順序になっていましたが、コミックでは「ボーディー・ルックの亡命」→「内通者殺害」と入れ替わってます。確かにこの流れの方が、時系列どおりで分かりやすいです。
また、ページを見返してみると、ボーディー・ルックがソウ・ゲレロの手下に捕まったシーンで、キャシアン・アンドーに情報をもたらした内通者が後ろの方にいることがはっきり確認できます。

また、キャシアンの「まさに生死の問題だ」というセリフは、投降の際ボーディー・ルックがソウ・ゲレロの手下に言った「これは(同盟軍全体の)生きるか死ぬかの問題だ」というセリフと符号させることで、内通者一人の命の問題と、同盟軍全体の命運がかかった問題を天秤にかけてます。

つまり、同盟軍全体のためなら人一人の命など何とも思わない、ということです。

このシーン(内通者を殺してキャシアンが壁を登って逃げるシーン)ですが、映画と違ってコミックでは、上から俯瞰した構図になっていて、手前のキャシアンは暗い影になっていて、光の当たる地上には、内通者とストームトルーパーが倒れている様子が描かれてます。

ここでコミック作家陣のジョディー・ハウザーとエミリオ・レイソーが示そうとした意図は、自分達の全体利益のためなら味方も敵も等しく殺す同盟軍は、決して善だけの存在ではない、という厳然たるリアリティだと思います。


爆撃に巻き込まれるクレニック長官を描いたコマ割り

イードゥーで、同盟軍の爆撃に巻き込まれクレニック長官が倒れるシーンは、同時にゲイレン・アーソが死ぬ場面でもあります。

ここで、爆撃で火の海となっている過酷な現実のシーンと、クレニック長官から見たゲイレン・アーソとの思い出を回想するシーンが、全く同じ長方形のコマ割りで交互に淡々と描かれます。

このシーン、映画ではゲイレン・アーソの死にスポットが当たっていましたが、コミックではむしろクレニックの心情に視線が向けられています。

面白いのは、映画でゲイレン・アーソから見たクレニックという人物は、自己中心的でゲイレン・アーソの人生を狂わせた悪人でしたが、クレニックから見ると、二人は良き同僚で良きビジネスパートナーだと考えていたことがコミックのこのシーンで分かります。

クレニックにとって、過去の二人は大変良好な関係で幸せな時代として映り、一方現在は、同盟軍の爆撃に巻き込まれ、またこの後すぐ報告のためダース・ベイダーのいるムスタファーへ移動しなければならないという慌ただしい身で、息をつく間もない過酷な状況です。

「なぜこんなことになってしまったのか……」
クレニック長官の悔恨、悲しみがひしひしと伝わってくる、そんな演出がこのコマ割りから感じられます。


ダース・ベイダーの登場シーンは"赤"

コミック独自の演出としてページのカラーリングがあります。基本、見開き単位またはページ単位で同系色でまとめることで、ページをぱっと開いた瞬間ごちゃごちゃした印象を与えず、また色彩の持つイメージ(色彩心理)からそのシーンの雰囲気を読者に伝えます。

例えば同じ宇宙船の船内でも、キャシアン・アンドーの船内は茶色を基調としてどこか温かみがあり(P30-31)、一方ページをめくったP32-33のターキン総督とクレニック長官が乗るスター・デストロイヤーの船内は寒色系を基調とした冷たく機械的な印象を読者に与えます。

そんなカラーリング演出が最大に効いているのがダース・ベイダーの登場シーンです。

ご存じの通り本作でダース・ベイダーの登場シーンは2回あります。ムスタファーでクレニック長官の報告を聞くシーンと、同盟軍の船に乗り込みライトセーバーで無双するラストのシーンです。

この両シーン、どちらも"赤"が基調です。

"赤"が持つ色彩イメージに「危険」「緊張」があります。
ダース・ベイダーの登場シーンを赤くすることで、クレニック長官、または同盟軍兵士から見たダース・ベイダーの圧倒的威圧感が表現されています。


ローグ・ワンにつながる重要短編も収録


本書は、本編『ローグ・ワン』とともに、本編につながる重要な前日譚となる『キャシアン&K-2SOスペシャル』の読み切り作品も同時収録されてます。

こちらは、キャシアン・アンドーとK-2SOの出会いを中心に描いており、ページ数も36Pと大変読み応えのある内容となってます。

K-2SOは「思ったことをすぐに口に出す」「悲観的な状況をパーセンテージで正確に言う」という性格が特徴的で、ローグ・ワンで一躍人気を博したドロイドです。
彼がどうしてこんな性格になったのか、本書でその原因の一端が読み解けます。

また本短編は、ローグ・ワンはもとよりSW全体に関わる重要な設定に少し関わってます。

「デス・スター開発の遅れ」というエピソードは、レジェンズ作品ではたびたび語られた題材です。ルーカス・フィルムのディズニー買収後、これらの設定がカノン(正史)でどう扱われるか不明でしたが、本書ローグ・ワンで、クレニック長官がターキン総督に対し「セキュリティ問題がデス・スターの開発を送らせている」ことに言及していることで、その設定がカノンでも生きていることが分かります。

本短編でキャシアンは、帝国のセキュリティ・プロトコルを入手するために辺境のコロニーズに訪れ、最終的に成功します。(※どのように成功したかは本書を読んで確かめてください。)
ここで語られた「セキュリティ・プロトコルの取得」が、「デス・スター開発の遅れ」の一因となり、ローグ・ワン本編で語られる「デス・スター設計図の奪取」につながり、最終的にエピソードⅣへと発展していくのです。

そう考えると、この短編の重要性が分かります。


……以上、見どころ満載の本書は、映画『ローグ・ワン』を観てない人はもちろん、観た人にも改めて読んでいただきたい作品です。
長文になってしまいましたが、最後までお読みいただきありがとうございました!
今週はこの辺りで。来週もまたお会いしましょう。

(文責:小出)

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