2015年10月14日水曜日

まさかの作家デビュー!? 『デッドプールの兵法入門』

「アメコミ魂」読者の皆さま、こんばんは! こんにちは! おはようございます!

さてさて、先々週に引き続き、デッドプール新刊のご紹介です。

今回は、『デッドプール:モンキー・ビジネス』と同日発売の『デッドプールの兵法入門の魅力をお伝えしたいと思います。
『デッドプールの兵法入門』
ピーター・デイビッド[作] スコット・コブリッシュ[画]
定価:本体1,400円+税
◆好評発売中◆
本著、原題は『DEADPOOL'S ART OF WAR』といいまして、「ART OF WAR」とは、かの有名な古代中国の兵法家・孫子が記した兵法書『孫子』の英語タイトルです。直訳すれば、「デッドプールの『孫子』」ということになります。そのタイトルが示す通り、孫子本人から『孫子』を奪い取ったデッドプールが、同著を出版してひと儲けしようと企む物語。「『孫子』の関連本はいっぱい出版されているから目新しさがない」と、出版社からダメ出しされたデッドプールそれなら超実践編にしようということで、ロキをそそのかしてアスガルドと地球を巻き込んだ戦争を起こし、それを本にまとめるという、はた迷惑な計画を実行します。もちろん、それがきっかけで手痛い目に遭うのですが、その様子はぜひ本著を手に取ってお確かめください。

さて、本著で注目したいポイントは、その物語構成です。全体が4章で構成されていますが、物語の筋が孫子』の13篇に対応しながら進んでいきます。つまり、れっきとしたデッドプール作品でありながら、このコミックを読めば『孫子』の概観が理解できるという作りになっているのです。ビジネス書、リーダーシップ術、歴史書など、『孫子』を解説したり元にした作品は多数ありますが、デッドプールのハチャメチャな面白さと『孫子』を両立させた作品は、本著をおいて他にないでしょう。

この奇想天外なアイディアを物語としてまとめあげたのは、約12年(1987~1998年)にわたって『インクレディブル・ハルク』誌のライターを務めたピーター・デイビッド。他にも『アベンジャーズ:シーズン・ワン』(小社刊)などを手がけたベテランです。そして、読めば読むほど味わいが増すアートワークは、「マーベル・ナウ!」でスタートしたデッドプール第3シーズンでも画力をいかんなく発揮しているスコット・コブリッシュによるもの。

上記のような物語なので、他作品との関連性が薄く、しかもスパイダーマンハルク、映画が公開されたばかりのファンタスティック・フォーなど、いろんなヒーローがカメオ出演するのでお得感もばっちり。しかも、これだけ品質保証がされていながら、邦訳コミックとしては破格の本体価格1,400円! まさにアメコミ初心者が手に取るにはもってこいの作品。もちろん、これまでデッドプールの活躍を追いかけてきたファンの方々も、お腹を抱えながら笑って手に汗握ること請け合いです。

そのことを証明するように、発売から約1ヶ月が経ち、読者の皆さまからもご好評をいただいております。先日、関西の書店さんを視察して回ったのですが、発売直後に完売して追加注文をくださった書店さんや、欠品状態の書店さんがあったほどです。
喜久屋書店漫画館京都店様にて。
デッドプールを大きく展開してくれています!
デッドプール邦訳シリーズも本著で7タイトル目。徐々に数が増えてどれから読んでいいのか迷っている方は、まずこちらから始めてみてはいかがでしょうか?


(文責・山口大介)

2015年10月7日水曜日

「アイズナー賞」「ハーベイ賞」って何?



皆様、こんにちは!

小社より日本版を発売しているコミック『サーガ』が、先日アメリカで発表されたハーベイ賞で、なんと3を獲得しました! ということで今回は、アメコミ界隈でよく名前を聞く2大賞である“アイズナー賞”“ハーベイ賞”について簡単に説明しつつ、先月日本でも発売された『サーガ3をご紹介させていただきたいと思います。

アイズナー賞ハーベイ賞は、もともと一つの賞でした。マーベル・コミックスで数多くのスーパーヒーローを共同考案したことで知られる、コミック界の偉人ジャック・カービーの名前を冠して、1985から始まった“カービー賞”です。ところが、3年ほど続いたところで体制に変化が生じて、その結果1988からアイズナー賞ハーベイ賞という二つの、似たようなコンセプトの賞が始まることになったのです。ちなみに、どちらもコミック業界人による投票で決められています。

●アイズナー賞フランク・ミラーが映画化した『ザ・スピリット』で知られるアメコミ界のパイオニア、ウィル・アイズナーの名前を冠する。毎年7に行われるサンディエゴ・コミコンにて発表。 

『サーガ』の受賞は……
2015年→2「コンティニュイング・シリーズ」「アーティスト/ペンシラー/インカー」
2014年→3「コンティニュイング・シリーズ」「ペインター/マルチメディア・アーティスト」「ライター」
2013年→3「ニュー・シリーズ」「コンティニュイング・シリーズ」「ライター」

●ハーベイ賞アメリカを代表するユーモア誌『マッド』での活躍などで知られるカートゥニスト、ハーベイ・カーツマンの名前を冠する。ここ10年ほどは毎年89に開催されるバルチモア・コミコンにて発表。

『サーガ』の受賞は…… 
2015年→3「コンティニュイング/リミテッド・シリーズ」「アーティスト/ペンシラー」「カバーアーティスト」 
2014年→4「コンティニュイング/リミテッド・シリーズ」「アーティスト/ペンシラー」「カバーアーティスト」「ライター」
2013年→6「ニュー・シリーズ」「コンティニュイング/リミテッド・シリーズ」「シングル・イシュー/ストーリー」「アーティスト/ペンシラー」「ライター」「カラー」

ちなみに小社関連では、以下の作品/作家も今年のハーベイ賞を受賞しています!・「インカー」→ダニー・ミキ『バットマン:ゼロイヤー』を担当)
『バットマン:
ゼロイヤー 陰謀の街』
定価:本体2,000円+税
●好評発売中!●
・「グラフィック・アルバム・プレビアスリー・パブリッシュド
(※描きおろしではない、再録単行本)

 『マウスガード:ボールドウィン・ザ・ブレイブ&アザー・テイルズ』(未邦訳のシリーズ最新短編集)
『マウスガード 1152年 秋』
定価:本体3,000円+税
●好評発売中!●

・「バイオグラフィカル/ヒストリカル/
 ジャーナリスティック・プレゼンテーション(※コミック関連の出版物等)」→『タートルズ大全』
『ミュータント タートルズ大全』
定価:本体3900円+税●好評発売中!●
以前はアイズナー賞→メインストリーム寄りハーベイ賞→いわゆるオルタナティブ・コミック寄り、といった印象がありましたが、近年ではそういうジャンル分けもあまり意味をなさなくなったからか、それぞれの違いや傾向は見えづらくなっているようです。とはいえ、2012に創刊して以来これだけ毎年両賞の制覇が続く『サーガ』、やっぱりスゴい作品なんだなあと。それでは、そろそろ3のご紹介をさせていただきます。

宇宙を二分する“羽人”“角人”両方の種族からの逃避行を続けるアラーナ一家。それを聞きつけ、これは特ダネになるとふんだゴシップ紙の記者コンビ、アップシャードフが関係者に取材を始める。その一方で、賞金稼ぎザ・ウィルとその一行も、着々とアラーナたちに迫っていた。そうとも知らず、アラーナたちは二人が結ばれるきっかけになった小説の作者、オズワルドと交流を深める。賞金稼ぎプリンス元婚約者……さらにマスコミまで動き出すなか、宇宙のお尋ね者となったアラーナたちと追手との対決の時が迫る!

本巻の見どころの一つとして、新たに登場した記者コンビの動きがあります。羽人の支配圏にいる種族なのですが、記者として真実をつかもうとアラーナ周辺の人々に聞き込みをすることで、読んでいる側も自然に作品世界の一端が垣間見られる仕組みになっています。さらに小説家オズワルドとのやりとりから人々の内面的な部分を描いて、一見途方もない世界に思わせつつも、そのなかに住んでいるのは間違いなく“人”なんだと感じさせ、ますますこの世界についてもっと知りたい!物語の先が気になる!と思わせてくれます。

数多くの賞を獲得しているのも、たぶん単純に“おもしろいコミック”だからなのではないかと……ということで、まだお読みになっていない皆様にも、ぜひご一読をお願いしたい作品です!
ではでは、今日はこんなところで失礼します。


(文責:中沢俊介)