2014年5月26日月曜日

豪華な作家陣に注目!! 『バットマン:ブラックミラー』

みなさん、こんにちは!

ついにタイトルも決まった映画『バットマンVスーパーマン:ドーン・オブ・ジャスティス』バットスーツモービルをツイッターでチラ見せしたりして制作進行中をアピールしてますが、現時点での公開予定日は2年後2016年5月と、まだまだ待たされそうですね。 

でも、なんといっても今年はバットマン生誕75周年。日本版コミックはそこまでお待たせしません! 今月28日発売されるのは『バットマン:ブラックミラー』
▲『バットマン:ブラックミラー』
スコット・スナイダー[作]
ジョック、フランチェスコ・フランカビラ[画]
2,600円+税
●5月28日発売予定●
超大作『バットマン&ロビン』から始まった新サーガ第二部がひと段落したからといって見逃してほしくない、キラリと光る逸品です。

『バットマン:ブラックミラー』は、2011年に刊行された『ディテクティブコミックス』#871#881をまとめた作品。“ニュー52”によって雑誌が新創刊される直前の物語にあたります。ということは、1937年以来(バットマンの登場は創刊の約2年後)続いてきた伝統ある雑誌の、掉尾を飾る作品なのです! 
そんな大役を任されたのは、当時若手のなかでも将来を嘱望されていた精鋭ライター&アーティストたち――。まずライターはスコット・スナイダー小説家として2006年に処女短編集を上梓すると、スティーブン・キングに「T・コラゲッサン・ボイル(映画にもなった『ケロッグ博士』の著者)の再来!」と激賞された俊英です。やがて2010年にDC傘下のバーティゴ・レーベルでオリジナル・コミック『アメリカン・バンパイヤ』を創刊すると、キングがバックアップ・ストーリーを手がけたこともあって話題を呼び、翌年にはアイズナー、ハーベイの二大コミック賞を受賞したのです。

本作『ブラックミラー』が完結してニュー52が始まると、彼は月刊誌『バットマン』のライターに就任しました。そうして生まれたのが小社刊行の『バットマン:梟の法廷』。その後もヒット作は続き、さらにジム・リーと組んだ『スーパーマン・アンチェインド』や、バットマン生誕75周年企画の週刊誌『バットマン・エターナル』を立ち上げるなど、いまやDCの将来を担う新世代のトップスターになっています。
▲『バットマン:梟の法廷』

アーティストの二人も要注目です。イギリス人アーティストのジョック(本名:マーク・シンプソン)といえば、『ルーザーズ』『グリーンアロー:イヤーワン』前者は2010映画化されたのですが、彼の絵柄が色濃く反映された画面作りになっていました。そして後者は話題のドラマARROW/アロー』の実質的な原作となった作品。DCユニバースのなかでも比較的マイナーなキャラクターたちが映像化にまでたどり着けたのは、“時代の気分”を感じさせる、彼のシャープで鮮烈な絵の魅力によるところも大きいでしょう。DMZブライアン・ウッド(ゲーム会社ロックスター出身)と並んで、いま非コミック業界に最も愛されているコミック・アーティストといえます。

元々カバーアーティストとしても評価が高かったうえに、最近ではポスターなど映画関係の仕事も増えてたりして
2012年版『ジャッジ・ドレッド』コンセプトアートも担当コミック本編を手がける機会もすっかり減ってしまったので、その意味でも本作は貴重かなと。

もう一人のアーティストはイタリア人のフランチェスコ・フランカビラパルプ小説を彷彿とさせるノスタルジックな世界妖しい色使いで描き、ジョックと好対照をなしています。イタリアといえば悪漢コミック“フュメッティ・ネーリ”など独自のコミック文化がありますが、そんな伝統を感じさせたりもします。最近ではローン・レンジャーフラッシュ・ゴードンのコミック版のカバーを手がけてアイズナー賞を受賞したり、1940年代から続く老舗ユーモアコミック『アーチー』のゾンビ版を手がけたりして、評価を高めています。
個人的にはこの人の描くレッドロビンハービー・ブロックがツボ! 特に前者、あまり登場しないのですが、チープなレトロ感覚が不思議とマッチしていて、キャラクターの新たな魅力が発見できました。

タイムライン的にはブルース・ウェインが帰還して、『バットマン・インコーポレイテッド』が始まった頃にあたるこの作品、物語の構成としては、ジョックのパートではディック・グレイソンが中心になって、バットマンを襲名した彼が自分の役割に自信を持てないながらも事件に挑む様子がみずみずしい筆致で描かれ、フランカビラのパートではゴードン本部長を中心に据え、過去と向き合い、葛藤しながら前に進もうとする様子がムーディに描かれます。そんな二人を結びつけるキーパーソンが、ジェームズ・ゴードン・ジュニア! ……そう、2008年の映画『ダークナイト』でトゥーフェイスに誘拐された、ゴードン本部長の息子です。彼の思いもよらぬ恐ろしい成長ぶりは、ぜひみなさんに読んでいただきたいところです。

ニュー52が始まっていったん“なかったこと”になりましたが、2年ほどの在任期間のあいだ、ディック・グレイソンはいろんな雑誌でバットマンとして活躍していました。本書の巻末では翻訳者の高木亮さんに、そんなディック版バットマンの足跡をまとめていただいています。
▲『バットマン:ゲート・オブ・ゴッサム』

ともあれ、作中のキャラクターのみならず、アメコミ界の過去と未来を繋ぐ重要作でもある『バットマン:ブラックミラー』、自信をもってお勧めします! 

来月は、スコット・スナイダーも関わった『バットマン:ゲート・オブ・ゴッサム』が発売予定です。こちらもお楽しみに! 

ではでは、今日はこんなところで。


(文責:中沢俊介)

2014年5月19日月曜日

祝発売! アラン・ムーアの『プロメテア1』

みなさん、こんにちは! そして、お待たせしました!

アメコミ界の生ける伝説、あの『ウォッチメン』のライター、アラン・ムーア畢竟の大作がついに日本版刊行スタート! ということで、今回は『プロメテア1』を激推しさせていただきます。
▲『プロメテア1』
アラン・ムーア[作]/J・H・ウィリアムズIII[画]
3,200円+税
●5月28日発売予定●
おおまかなストーリーはこちらをご覧いただくとして、まずは書誌的な情報から。『プロメテア』は、アラン・ムーアが自ら立ち上げたレーベル“アメリカズ・ベスト・コミックス”(以下ABC)にて、1999から2005まで出版された全32号のコミックです。そして今回底本となっているのは、2009年から2011年にかけて、豪華版として発売された単行本『アブソリュート・プロメテア』全3巻第1巻

本作立ち上げ当時、ムーアはアメリカン・コミックスのライターとして、第2の絶頂期を迎えていました。1980年代末期にいろいろあってDCコミックスと袂を分かった彼は、1990年代いっぱいイメージ・コミックスをはじめとする独立系のコミック出版社と仕事をしてきたのですが、そんなイメージ・コミックスとのつながりから、当代きっての売れっ子アーティスト、ジム・リーの出版社ワイルドストームの傘下で個人レーベルABCを設立したのです。そうして創刊した雑誌のラインナップはというと……

1999年3月『リーグ・オブ・エクストラオーディナリー・ジェントルメン』
1999年6月『トム・ストロング』
1999年8月『プロメテア』
1999年9月『トップ10』
1999年10月『トゥモロー・ストーリーズ』

と、現在まで知られる代表作、人気作を含む強力な布陣(発行月はカバーデイトで表記)。しかも、これらの雑誌がしばらくのあいだ毎月のように刊行されていたのです! 大長編から短編集SFから古典文学のパスティーシュまで、テーマもスタイルもとりどりな作品が! 

かつて1984『スワンプシング』でアメリカに進出して以降、彼はスーパーマングリーンランタンといった他のキャラクターでも傑作を次々と連発し、一方ではイギリス時代の『ミラクルマン』も再発されるようになりました(こうした流れの頂点に『ウォッチメン』『バットマン:キリング・ジョーク』があります)。そんな1980年代半ば頃に次ぐ、アラン・ムーアの充実期が1999だったといえるでしょうう。
▲『ウォッチメン』
『バットマン:
キリング・ジョーク 完全版』
さらに、そんな脂ののったムーアの語りをがっぷりと受けて立ったアーティスト、JH・ウィリアムズIIIの縦横無尽な作画も見逃せません。当時のアメコミ業界では、従来のストーリーテリングを更新しようとする試みが様々な角度から行われていました。たとえば、グラント・モリソン/ハワード・ポーターJLAウォーレン・エリス/ブライアン・ヒッチ『オーソリティ』では、大ゴマを大胆に使った“ワイドスクリーン”とも呼ばれる手法で、壮大な物語がスピーディに展開されるかと思えば、フランク・ミラー300<スリーハンドレッド>』では版型そのものが横長になって重厚な歴史劇が描かれ、さらにクリス・ウェア『ジミー・コリガン』では、毎号版型が変わり、極度にデザイン化された画面で凡庸な人間の営みに微視的に迫る、といった具合に。

そんななかで刊行された『プロメテア』も負けていません。JH・ウィリアムズIIIは、描けないものはないんじゃないか、と思えるくらい自在に絵柄を変化させ、多彩な様式によってコマ割りに象徴的な意味を持たせ、おそらく凄まじい情報量だったであろうムーアの脚本を、重層的に具現化しています。

やがて自作の映画化に関して苦い思いをすることになるアラン・ムーアですが、この時点ですでに、そうやすやすと絵コンテ代わりに使われてたまるか、という意地すら感じさせるほど、コミックならではの表現を推し進めていたのです。 

ともあれ、何より強調したいのは、この作品が単純に“面白い”ということ。はじめは、魔術指南のコミックといえば、高弟のニール・ゲイマン『ブック・オブ・マジック』書いてたなあ……とか、DCのメジャーキャラのなかで、ワンダーウーマンは手付かずだったけど、これってもしかして……なんて考えながら読んでましたが、そんな小理屈すぐにどうでもよくなって、物語に引き込まれてしまいました。 

1980年代後半にアメコミ界を席巻した、血なまぐさくうす暗い“グリム&グリッティ”ブームの源流とみなされることもままあるアラン・ムーアですが、本作の読み心地はとてもポジティブ聖と俗を行き来し、ユーモアも交えつつ、未知のコミック体験へと読者を連れていってくれます。

実際の魔術に興味がなくても、世界を変えるほどの力を突然手に入れた平凡な女子大生の奇想天外な冒険譚、つまり一種の“魔法少女もの”として読めますし、もちろん魔術に興味津々の読者にも、訳者である柳下毅一郎さんによる詳細な解説も含め、万全の配慮がなされています。全3巻を最後まで読みとおせば魔術が使えるようになるんじゃないか、というくらいに。

コミックのメインストリームとは距離を置いて久しいアラン・ムーア。とはいえ、かつて彼が考案したコンスタンティンを主役にしたテレビドラマの制作が決定したりと、まだまだ話題を提供してくれます。とにかく、アラン・ムーア一流の超現実主義宣言であり、コミック表現を極めた一大娯楽作でもある『プロメテア1』、おすすめです!

▲『バットマン:ブラックグローブ』
最後に、本書を読んでJH・ウィリアムズIIIの華麗なアートに魅了された読者におすすめなのが、グラント・モリソンと組んだ『バットマン:ブラックグローブ』ニール・ゲイマンによるサンドマン』新作も控えている彼の、多様かつポップな作画が満喫できます。 

ではでは、本日はこのへんで。


(文責:中沢俊介)

2014年5月12日月曜日

アメコミ初心者が『ウォッチメン』を読む

こんにちは!

皆さん、ゴールデンウイークはいかがお過ごしでしたか?

映画『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』『アメイジング・スパイダーマン2』が日本でも公開されましたし、充実した日々だった方も多いのではないのでしょうか。映画といえば、6月20日公開予定の『300〈スリーハンドレッド〉 帝国の進撃』は小社よりアートブックも刊行を控えていますので、劇場とあわせてこちらもぜひお楽しみに!

さてさて今回のブログ、読んでみたのは『ウォッチメン』(2009年小社刊)です。
『ウォッチメン
アラン・ムーア[作]/デイブ・ギボンズ[画]
定価:3,400円+税
●小社より好評発売中●
原作は1986年から1987年にかけて刊行された全12号の「グラフィック・ノベル」で、日本でもよく知られている実写版映画は2009年に劇場公開されました。それまで“子供向け”と認識されていた「ヒーローコミック」に、大人でも楽しめる本格的なストーリーを持たせたこの作品は、アメコミ界へ現在まで至る大きな影響を与えたといわれています。巻末には作者アラン・ムーアによる解説キャラクター設定にまつわる資料などを収録して、発行から5年経ったいまもなお大好評発売中です!
不朽の名作と呼ばれる本作、内容はぜひとも本編を読んでいただきたいのですが、謎解きの要素だけでなく、「スーパーヒーロー」の存在する意義や、持つ力をどのように使うべきか現実世界にヒーローがいたらどういう存在なのだろうか、と考えるようになりました。

この『ウォッチメン』にはバットマンやスーパーマンといった、これまでに活躍してきたアメコミのヒーローは登場しません

劇中で活躍している(していた)ヒーローたちはそれぞれの歴史を積み重ねていますが、読者は彼らについて何も知りません。その知らないヒーローたちがどんなキャラクターか、コミックのストーリーで触れられるほかにエピソードの間で挟まれる書面や文章が語ってくれます。ヒーローを理解する大事なエピソードですので、決して飛ばさないように! 気づけば、以前からからそのヒーローたちを知っていたような気持ちになることでしょう。

さらに、ストーリーの主軸と平行して登場人物が読んでいる「劇中コミック」は作品世界での人気コミックという設定ですが、それだけでも1冊のコミックとして読めそうな内容。そんな二重三重に要素の絡みあうストーリー展開に、ミステリーのような驚きが溢れています。

作品中の“アメリカ”は、本作が発表された年代と同じ1985年の設定ですが、いくつかの歴史が異なっているパラレルワールドです。

ヒーローがいたからこそ、現実の世界とは少し違う1985年のアメリカ。技術の革新や国内の安定した情勢とは裏腹に、ソ連(ソビエト社会主義共和国連邦)との間で続く冷戦は、1985年当時の実際の冷戦構造よりもさらに緊迫化した世界になっていて、地球規模で見るといつ核戦争が引き起こされてもおかしくない状況……。

この空気感は、いま20代の読者の方にはリアルタイムではないやもしれませんが、一触即発で地球が滅びる、とまで言われていたのです。『ウォッチメン』で特徴的な時計の表示も、「世界終末時計」をもじったものだと気づけば「なるほど!」と唸りました。

「ウォッチ」が時計だと思ってた未読のアナタ、間違いじゃないけど違います!(笑)

ストーリーが進むにつれ、登場するヒーローたちのもつ「正義」とはなにか、が語られていきます。
かつては正義の存在だったはずが、力なく屈することもあれば憎悪の対象だった出来事が、いま思えばすべてが悪ではなかったと思えたり正義を貫く姿勢は変わらないけれど、そのための手段は個人によって正反対であることも。

ストーリーが進む中で「一番悪いヤツ」という印象を持っていたはずの1人に、読後に振り返ってみると「一番ヒーローらしいかも」と思えてしまった自分に驚きました。他方で、全体的な正義のため細かな悪は目をつぶることもある、というヒーローは、実は一般人の我々の感覚に近いのかもしれません。でもそれは我々が憧れた「正義のヒーロー」なのでしょうか……?

コミックでは語りきれなかった事柄は、巻末に収録された作者のアラン・ムーアによる解説と設定資料によってさらなる奥深さへといざなってくれます。作品からの世界観への甘美な誘惑!

本書には日本語版の解説は収録されていません。これは全世界で原書に忠実なものを刊行して欲しい、というアラン・ムーアとDCコミックスの意向として、なのですが、簡単な人物紹介と時間軸を追った年表は封入のリーフにも触れられています。もちろん一度読み終わったあとで!がオススメですよ。

今回「難解だよ?」と言われながら渡された『ウォッチメン』でしたが、作品世界の奥にまで引きずり込まれれいくような感覚は、マニア気質のワタシにはたまらない快感でした。コミックのコマを忠実に実写で再現したという映画版についても、ラストが少し異なるようですので、こちらも改めて楽しんでみたいと思います。

ところで作者アラン・ムーアの作品といえば、小社より『プロメテアⅠ』今月発売予定で控えております。次回のテーマはその『プロメテアⅠ』ですので、お楽しみに。

それではまた!


(文責:石割太郎)