2014年3月24日月曜日

超大作『アルティメッツ』に続刊が登場!!

こんにちは!

まるで何かに大はしゃぎをしているような勢い抜群のカバーイラストが(一部で)おなじみの、『アルティメッツ 2』がついに刊行されました! 評判も上々のようで、担当としても嬉しい限りです。
▲『アルティメッツ 2』
マーク・ミラー[作] ブライアン・ヒッチ[画]
定価:本体3,800円+税
●小社より発売中●
そこで、今回はより多くの方にこの“あらゆる意味で超ド級の作品”をお手にとっていただくべく、その魅力の一端をご紹介させていただきたいと思います。

ちなみに“アルティメッツ”というのはヒーローたちが結成したチームの名称です。アルティメッツとは別世界のアベンジャーズであり、彼らの活躍を描いた作品が前作『アルティメッツ』、そして今作『アルティメッツ 2』なのです。

本書を知っていただくためには、映画『アベンジャーズ』の説明が欠かせません。まずはそこから言及させていただきましょう。


映画『アベンジャーズ』の“原典”にして“原点”

「日本よ、これが映画だ。」
2012年8月、挑戦的なキャッチコピーとともに上陸した映画『アベンジャーズ』。
マーベル・シネマティック・ユニバースという新たな世界観を構築すべく、2008年公開の映画『アイアンマン』の製作時から綿密に準備されてきたこの作品は、数々の公開記録を塗り替え、『アバター』『タイタニック』に続いて歴代3位となる15億ドル超の世界興行収入を打ち立てました。もちろん、この日本でも大ヒットを記録し、アメコミのすそ野が大きく広がったことは記憶に新しいところです。

そして、この映画の“原典”にして“原点”といえるのが、マーク・ミラー(ライター)とブライアン・ヒッチ(ペンシラー)のコンビが世に送り出した超大作コミック『アルティメッツ』です。どこが“原典”にして“原点”なのか、ということは『アルティメッツ』をお読みいただければ分かると思います。

チームのメンバーたちを束ねるのは平和維持組織シールドの長官、サミュエル・L・ジャクソンにそっくりなニック・フューリー(将軍)です。そして、チームの中心メンバーとなるのはキャプテン・アメリカ、アイアンマン、ソー、ハルク、ブラック・ウィドウ、ホークアイ。まさに映画『アベンジャーズ』でチームを組んだヒーローたちが本書で活躍しているわけですね(コミックには他のヒーローもいますが、後述します)。

従来のコミックでは白人だったニック・フューリーをサミュエル・L・ジャクソンが演じたり、キャプテン・アメリカは本作の設定やコスチュームデザインが映画のベースになったりと、さまざまな面で本作のアイデアがマーベル映画に影響を与えています。


とにかく“ヤバイ”登場人物たち

しかしながら、それでも本書が映画『アベンジャーズ』の“原作”とは呼べないことは、読者の誰もが賛同してくださることでしょう。映画とコミックではストーリーが異なっているから……なんて理由は、些細なことです。一番違うのはキャラクター性そのもの。できる限りオブラートに包んで表現するなら「本書の登場人物は全員、ヤバイ奴ら」なのです。

キャプテン・アメリカ(スティーブ・ロジャース)は兵士そのものであり、愛国心の塊で、目的のためなら手段を選びません。

アイアンマン(トニー・スターク)は、比較的映画のイメージに近いかもしれません。映画と同様にエキセントリックな性格であり、アルコール依存症などの問題も抱えてはいるのですが、周囲のメンバーがヤバ過ぎてむしろ本書では一番の常識人に見えてしまうことも。ただ、アイアンマン・スーツのデザインは映画等とはかなり異なっています。

ソーは自称雷神です。あくまで“自称”であり、周囲からは“自分が神様であるという妄想を抱えた、精神異常者”と思われています。

ハルク(ブルース・バナー)に至っては、間違ってもヒーローと呼んではいけないレベルの殺戮モンスターとなり、シャレにならない大虐殺事件を起こしてしまいます。ちなみに、バナーに戻ったときも嫉妬のとりこであります。

ブラック・ウィドウ(ナターシャ・ロマノフ)は映画よりもだいぶ口と態度が悪く、ホークアイ(クリント・バートン)は映画よりもややお調子者の印象になるかと思います。

そして、アルティメッツには映画にはまだ登場していないヒーローたちも参加しています。

ジャイアントマン(ハンク・ピム)は、本書を読んだすべての読者に一番強い爪あとを残したキャラクターだろうと思われます。有能な科学者であり、人体を巨大化する薬品を開発してジャイアントマンというヒーローとしてチームに参加するのですが、彼の本質はそんなことでは語りきれません。原作や『アルティメッツ 2』では、蟻の大きさに体を縮めて蟻と意思疎通ができる“アントマン”という姿も持っています。このアントマンは、現在映画化中です。

ワスプ(ジャネット・ピム)は、ハンク・ピムの妻であり、体を縮小して羽虫のように飛行したり、電気ショックを発することができる能力を持っています。彼女は(おそらく本書とはまったく違う設定で)4月から始まるアニメ『ディスク・ウォーズ:アベンジャーズ』にも登場!

スカーレット・ウィッチ(ワンダ・レーンシャー・マキシモフ)クイックシルバー(ピエトロ・レーンシャー・マキシモフ)は磁界王マグニートーの子どもで双子の姉弟。ワンダは可能性を操る魔法を使え、ピエトロは超スピードで移動できます。二人は、映画『アベンジャーズ 2』に登場するようですね。


“別世界”とは?

さて、映画と『アルティメッツ』の類似点と相違点はなんとなくお分かりになったのではないかと思いますが、そもそも冒頭に書いた“別世界のアベンジャーズ”とはどういう意味なのでしょうか? ご存知の方も多いとは思いますが、本書はマーベルが2000年代から立ち上げた新しいコミックのライン「アルティメット・ユニバース」の中心タイトルの一つです。

アメコミの人気キャラクターはその誕生から数十年にもわたって連載が続きます。たとえば原作コミックでアベンジャーズというチームが結成されたのは1963年(メンバーはアイアンマン、ソー、ハルク、アントマン、ワスプ)。すでに50年以上もの年月がたっているのです。長年の連載でストーリーは複雑化し、キャラクターもマンネリ化し、新たな読者が入り込むことが難しい状況になりました。

そのため、これまでのストーリーやキャラクターをリセットして、オリジナルの物語とは違うパラレルワールドの世界の物語が作られることになります。その試みの一つとして作られたのが、パラレルワールドの一つ「アルティメット・ユニバース」なのです。「アルティメット・ユニバース」ではさまざまな人気キャラクターが一から語りなおされているため、予備知識のない新しい読者でも入り込みやすい作品が生まれました。さらには世界観そのものが違うため、オリジナルではできないような実験的な試みができることが魅力となりました。


『アルティメッツ』

最強のチーム“アルティメッツ”の結成と、人類を護る壮大な戦いを描いた全376ページの超大作です。しかしながら、物語の冒頭から中盤で描かれるのは、ヤバイ登場人物たちの異常な人間関係が中心なのです。どろどろした嫉妬や疑念、内紛……それらの裏側で進行していた決定的な危機。
▲『アルティメッツ』
マーク・ミラー[作] ブライアン・ヒッチ[画]
定価:本体3,200円+税
●小社より発売中●
前半でどろどろした人間くさい姿が描かれているからこそ、彼らが負ければ人類が滅亡するという究極の戦いに赴くヒーローたちの姿は、信じられないほどカッコいいのです。しかし、その一方で、読者の皆さまはこう思うはず。

「ピムがクズ」であると……。


 『アルティメッツ 2』

そして続編となる今作は、前作からすべてがパワーアップした超ド級の大作です! 全480ページの分厚さと重量感も迫力十分ですが、中身はそれ以上にド迫力!!
▲『アルティメッツ 2』
マーク・ミラー[作] ブライアン・ヒッチ[画]
定価:本体3,800円+税
●小社より発売中●
前作で人類を救ったアルティメッツですが、人間関係は前作以上にこじれてどろどろの状態……。世間からの非難や、チームの内部にひそむ裏切り者の疑惑によって、チームに崩壊の危機が訪れます。見え隠れする“偽りの神、ロキ”の存在。読者も、いったい何が真実なのか分からないまま、アルティメッツのメンバーたちとともに怒涛の状況に飲み込まれていきます。

そして、迎える強力な敵たちとの戦い。前作では他のメンバーの影に隠れていたホークアイやピエトロ、ワンダの活躍に心を揺さぶられるはずです。最後に気になるピムの動向ですが……やはり期待を裏切らないと思います(笑)。

ともかく映画を見ているかのように、いえ、映画以上に壮大な作品のすばらしさに、読後は最高のカタルシスを得られるはずです!

『アルティメッツ』『アルティメッツ 2』はそれぞれ1冊で完結していますので、片方だけでも十分楽しめます。しかし、もちろん両方を読んでいただければ作品の魅力を十二分に味わっていただくことができると思います。

実は原書ではライターやアーティストが交代して、その後も『アルティメッツ 3』『アルティメイタム』と作品が続いていきます。これまた物議を醸すようなとんでもない方向へと物語が展開していくのですが、それについては別の機会に……。

兎にも角にも『アルティメッツ』と『アルティメッツ 2』は、編集担当として自信を持っておすすめできる最高の娯楽作です。ぜひ、お手にとっていただけたら、これほど嬉しいことはありません。


※このブログの内容については、『アルティメッツ』『アルティメッツ 2』の翻訳を担当していただいた光岡三ツ子さんの作品解説等を一部参考にさせていただきました。




(文責:佐藤学)

2014年3月3日月曜日

モリソンバッツ第二部『バットマン&ロビン』を激推し!

こんにちは!

先週ついに発売された『バットマン&ロビン』。みなさんご覧いただけましたでしょうか?
あまりの厚み(と、もしかしたら値段)に思わずためらってしまった方もいるはず。そんなみなさんに向けて、今回は本作品の魅力をさらにもうひと押し、アピールしてみたいと思います。「またかよ!」と言わずにどうぞお付き合いを。それだけの魅力お値打ちがある作品なんです
『バットマン&ロビン』
グラント・モリソン[作]/フランク・クワイトリー他[画]
定価:3,800円+税
●小社より好評発売中●
まずはやっぱりこの厚さ! 一見カジュアルな装丁ですが、総ページ数496ページと、ここ最近小社で刊行されたアメコミのなかでも最厚となっております。というのも、本書はもともと3冊の単行本だったところを1冊にまとめた“アブソリュート・エディション”が底本になっているのです(原書の画像や、この作品に至るまでのストーリー展開についての情報は前回のブログをぜひご覧ください)。


アブソリュート・エディション”についてもう少しお話を。“アブソリュート・エディション”とは、DCコミックス選りすぐりの名作のみに許される、豪華版の出版フォーマットです。たとえば小社では『ウォッチメン』『バットマン:ダークナイト』『キングダム・カム 愛蔵版』『バットマン:ハッシュ 完全版』などがそちらの版を底本としています。つまり『バットマン&ロビン』も、比較的最近の作品ですが、格としてはすでにこれらの名作群と肩を並べている、ということになります。


また、この厚みには内容的な必然性もあります。本書は、ライターであるグラント・モリソンの同誌における“ラン”を完全収録しているのです!


ラン(run”とは何か?

アメコミでは同じ雑誌がライターやアーティストを変えつつ延々と続くことがよくあります。だから区切りとなる単位として、一定の作家チーム、もしくは一人のライターが一つの雑誌を担当している期間をよく“ラン”と呼ぶのです。たとえば1980年代だと、アラン・ムーアによる『スワンプシング』、クリス・クレアモントジョン・バーンのコンビによる『X-MEN』などが名作ランと言われています(ちなみに、複数の号〔または雑誌〕にまたがったひとまとまりのエピソードは“ストーリーライン〔storyline”“ストーリーアーク〔story arch”などと呼ばれます)。

2009年夏にグラント・モリソンによって立ち上げられた新雑誌『バットマン&ロビン』ですが、彼が直接関わっているのは本書に収録されている第16号まで。以降は別の作家チームに引き継がれます。もちろん、モリソンによるバットマンの物語は2010年冬に再び彼が立ち上げた新雑誌『バットマン・インコーポレイテッド』に続きます。また『バットマン・アンド・サン』をはじめとする新サーガ第一部から持ち越している伏線もそこここにあります。
ですが、一人の作家によって一貫した流れで展開される“ラン”を余すところなく収録した本書は、モリソンのエッセンス、バットマンというキャラクターに託したビジョンが、日本人にとってもっとも把握しやすい形で集約された1冊といえるでしょう。

アメコミの醍醐味の一つとして、複数の雑誌にまたがって大事件が起こる“クロスオーバー”があります。横の広がりである“クロスオーバー”も、日本人にとってなかなか満喫することができない刊行形態ですが、縦の流れであるラン”を一気読みできるのも、また貴重な機会かと。


そしてモリソンと組んだアーティストも、個性と実力を兼ね備えた、いずれ劣らぬ名手ぞろい

冒頭を飾るのはモリソンとの名コンビで知られるフランク・クワイトリー。エピローグ(……と次へのプロローグ)的な読み切り『バットマンの帰還』の作画はデイビッド・フィンチ。この二人の“スーパースター”級アーティストに挟まれて、エピソードごとに異なるスタイルを持った気鋭のアーティストたちが腕を競っています(キャメロン・スチュアートフレイザー・アービングなど“モリソン組”ともいえるアーティストの起用もファンには嬉しいところ)。

それにしても、各々の絵柄の違いが半端じゃないことに驚かされます。グリム&グリッティな劇画から、英国的な湿り気を帯びたカートゥーンふう、そして表現主義に迫らんばかりの絵画調……しかも、どれも完成度が高い! アメコミの連載といえば、どちらかというとインカーやカラリストを揃えたりして、ペンシラーが変わっても統一感を出そうとするものですが、同じ雑誌の連載とは思えないくらいの振れ幅です。一方モリソンの物語も、それぞれの画風に合わせたテーマを打ち出しているので、さらに感嘆! そのうえ、クライマックスの第16章では作画的に驚くべき展開が待っています。通して読み進めることで初めて発動する、モリソンの語りの魔法。これはぜひ実際に読んで体験していただきたいところです。

というわけで、作家的気質を持ったカリスマ・ライターが一流のアーティストと組んで本気で挑んだ極上のコミック・エンターテインメント! グラント・モリソンのエッセンスが詰まった1冊! 『バットマン&ロビン』、お勧めです。
本書を読んでフランク・クワイトリーの個性的なアートが気に入ったみなさんにおすすめのコミックは『JLA:逆転世界』。グラント・モリソンとの抜群のコンビネーションが、(本書に比べると)お手軽に楽しめます。

そしてデイビッド・フィンチの“これぞアメコミ!”な重厚な絵柄が気に入った方々には、『ダークナイト:姿なき恐怖』を。同書で彼は脚本にも関わり、セルフプロデュースによる魅力が満喫できます。そして、今回ひときわ異彩を放っていたフレイザー・アービングが気に入った方は、もしかしたらすぐに再会できるチャンスが……。


来月刊行予定の新サーガ第二部第二弾バットマン:ブルース・ウェインの帰還』。 その頃ブルース・ウェインは……?”という視点で、ブルース・ウェインの奇想天外な冒険が楽しめる作品なのですが、フレイザー・アービングも作画陣の一人として再登板しています!



それでは今日はこのへんで。


(文責:中沢俊介)