2014年4月21日月曜日

名作『シン・シティ』いよいよ刊行スタート!

みなさん、こんにちは!

前々回のブログでも紹介させていただきましたが、じわじわと6月20日の公開が迫りつつある『300 帝国の進撃』。個人的にはエヴァ・グリーン演じるアルテミシアに惚れました! 小社より6月5日刊行予定のアートブックで予習のうえ、ぜひ皆様にもギリシアとペルシアの最終決戦に臨んでいただきたいところです。
▲『300 帝国の進撃 アートブック』
そして、フランク・ミラー関連といえばもう一つ、いよいよ数日後に迫ったビッグ・イベントが……そう、ついに『シン・シティ』日本版単行本の刊行がスタートするのです!

▲『シン・シティ1』
フランク・ミラー[作・画]
2,300円+税
●4月23日発売予定●
『シン・シティ』とは……
フランク・ミラーが1991年から約10年間かけて描き上げたハードボイルド・コミックの傑作で、間違いなく彼の代表作の一つ。 2005年にロバート・ロドリゲス、クエンティン・タランティーノ、そしてフランク・ミラー自身という豪華なメンバーで監督した映画が公開された時には大きな話題になったので、そちらをご覧になった方も多いと思います。

そして、続編である『シン・シティ:ア・デイム・トゥ・キル・フォー』がアメリカでは今年の夏、日本では来年公開予定となっています。

コミック版について、今回の発売のポイントとしては……
①初の全作品刊行!(※アートブックを除く)
原書TPBだと全7巻になる本作。これまでも他社さんから二度ほど日本版が刊行されましたが、全コミック作品が翻訳出版されるのは、今回が初めてになります。つまり、かつてDVDの特典としてのみ刊行された『ザット・イエロー・バスタード』をはじめとするパート・カラーの作品も、これですべて読めるのです!
②2 in 1の全4巻!(※最終巻を除く)
日本版第1巻から第3巻までは、原書2冊を1冊にまとめた、お得版です。

内訳は……
日本版第1巻=原書Vol. 1: The Hard Goodbye + Vol. 2: A Dame to Kill For
日本版第2巻=原書Vol. 3: The Big Fat Kill + Vol. 4: That Yellow Bastard
日本版第3巻=原書Vol. 5: Family Values + Vol. 6: Booze, Broads, & Bullets
日本版第4巻=原書Vol. 7: Hell and Back となります。

ちなみに、カバーを並べるとこんなかんじに……(※デザインは変更の可能性があります)

今回発売される『シン・シティ1』に収録される『ハード・グッバイ』は、映画だとミッキー・ロークが演じたならず者マーヴが活躍するエピソード。そして『ア・デイム・トゥ・キル・フォー』はタイトルから察するに、おそらく新作のキーとなるエピソード(主役のドワイトは前作のクライヴ・オーウェンからジョシュ・ブローリンに交代しましたが)。奇しくも、来たる新作映画に備えての予習&復習にピッタリの内容となっています。

また、『シン・シティ』の物語は、すべて“ベイスン・シティ”という架空の街で展開されています。なので、『ハード・グッバイ』に出てきたキャラクターが『ア・デイム・トゥ・キル・フォー』に再登場したり、同じ場面が違った視点から描かれたりしています。そんなちょっとしたお楽しみも、2 in 1形式なので見つけやすいのではないかなと。

刊行当時はアイズナー、ハーベイといったコミック賞を毎年のように受賞しまくっていた『シン・シティ』ですが、この作品の成功によって、コミック界に“犯罪もの”のジャンルが復活したと言われています。そして、そんな土壌から次世代を担う若いライターが生まれました。たとえば現在マーベル・コミックスを中心に活躍するブライアン・マイケル・ベンディスやエド・ブルベイカーは、1990年代中盤にインディーズ系の出版社で犯罪コミックの描き手としてキャリアをスタートさせたのです。かつて映画化された『ヒストリー・オブ・バイオレンス』や『ロード・トゥ・パーディション』といったコミックも、こうした流行と無縁ではないでしょう。

1980年代を通じて、バットマン、デアデビルといったキャラクターでスーパーヒーロー・コミックの可能性を追求しまくったフランク・ミラー。この時期を彼の“第1期”とするなら、オリジナル作品によってアーティストとしてさらなる飛躍を遂げた1990年代は、“第2期”といえるでしょう(すでに『RONIN』はやってましたが)。作品としてはジェフ・ダロウと組んだ『ハードボイルド』やポリティカルな『ギブ・ミー・リバティ』あたりから、『300』くらいまでがこの時期にあたります。すると、9/11を経て、映画界との関わりをますます深め、コミック作家としては次第に寡作になっていく2000年代は“第3期”となるでしょうか。

ともあれ、本作はオリジナル作品として『300』と並ぶフランク・ミラーの代表作といえます。コミック界きってのカリスマ作家による、時代を超えた傑作シリーズ、この機会にぜひ体験してみてください!

▲『デイトリッパー』
最後に、フランク・ミラーが本作で確立した、強烈なコントラストのついたモノトーンの画風は、ホセ・アントニオ・ムニョス、アルベルト・ブレッシアといったアルゼンチンのコミック作家の影響にあることはつとに知られていますが、隣国ブラジル出身の作家によるコミックが『デイトリッパー』。作風はまた違いますが、いろんな国の才能を吸収してアメコミは豊かになってるんだなあ、ということでご紹介を。

ではでは、本日はこのへんで失礼します。


(文責:中沢俊介)


2014年4月14日月曜日

アメコミ初心者が『ベスト・オブ・スパイダーマン』を読む

読者の皆さま、はじめまして!

先週のブログでさらりと紹介されました新メンバーの石割です!

新メンバーと申しましても、勤続10年ちょっとの中堅選手でございます。今まで国内キャラクターのライセンス・ビジネスに携わっておりましたが、アメコミに関しては多少キャラクター名を知っているくらいの“新人”です。アメコミ世界へ飛び込むビギナーとして、どうぞよろしくお願いします。

配属早々、たいした引継ぎもなしに「……という訳で、これ読んでブログ書いといて」といきなり先輩から渡されたのは『ベスト・オブ・スパイダーマン』(2012年・小社刊)。むむむ、これは何かのトライアルなのか……。

当然、私も2002年に公開した映画『スパイダーマン』はちゃんと観ました。来週4月25日(金)から日本でも『アメイジング・スパイダーマン2』が公開されますし、まずはこの本のレビューで皆さまへご挨拶、ということですね。ふむふむ、承知いたしました!

その前に、名刺代わりとして私が撮影した中からの1枚。少し古い写真で恐縮ですが、スパイダーマンのUSJラッピング電車です(笑)。
森ノ宮電車区 クハ103-799ほか
2012/03/14 ユニバーサルシティ駅 P:石割
実はワタシ、大の鉄道マニアなのですが、その話はまたの機会に。 


では、始めましょう!

■本書について
1994年10月に発売された傑作選『THE VERY BEST OF SPIDER-MAN』からの翻訳版。輝かしい1962年「スパイダーマン」の初登場から、1992年までの30年間に発表されたエピソードからチョイス。同梱される解説リーフには50年に及ぶ「スパイダーマン」コミック刊行の歴史と、重要エピソードの紹介、さらには本書に収録された各エピソードのコマに見られるポイントの解説や、簡単な登場人物紹介も掲載。
『ベスト・オブ・スパイダーマン
スタン・リー他[作]/スティーブ・ディッコ他[画]
定価:1,400円+税
●小社より好評発売中●

■さっそく読んでみました
読者諸兄にはお馴染みのストーリーですが、しばしお付き合いください。
※あらすじに触れていますのでネタバレ要素を含みます。未読の方はご注意ください!

1.「スパイダーマン誕生!」
『アメイジング・ファンタジー』#15/1962年8月発表

すべてが始まった最初のエピソード!
さえないガリ勉少年の主人公、ピーター・パーカーは、科学館でのとある実験で放射線を照射されたクモに噛まれ、特殊な身体能力を身につけた。当初はヒーローでもなかったピーターは、ある日逃げる泥棒をそのまま見過ごす。その泥棒が、ピーターの父親代わりであったベンおじさんを殺す事件が起きた。

この事実はピーターを大きく悲しませ、新たなヒーローとして目覚めさせることになった……。

スパイダーマンの有名なキーワード「大いなる力には大いなる責任が伴う」は、このエピソードのラストで入るナレーションのセリフです。
スーパーヒーローの誕生は、ベンおじさんの死があったからこそで「悲劇が生んだヒーロー」ともいえますね。

コミックの掲載された雑誌『アメイジング・ファンタジー』がこの号で終了、というシチュエーションも“悲劇”ですが、この「スパイダーマン」は大ヒット! 「最後だから自由にやろう」の発想が新しいヒーローを生み出したのかもしれません。


2.「不屈の精神」
『アメイジング・スパイダーマン』#33/1966年8月発表

正義の味方ながら、自らの正体を明かせないピーター。
スパイダーマンとしてどんなに戦っても苦労しても本当のことを言えない辛さ。

メイおばさんを助けるために、鋼鉄の下から全身の力を振り絞って抜け出す名シーン……これは、ピーターのジレンマを視覚的に象徴している、とのこと。「謎だらけの怪人・スパイダーマン」と市民に嫌われているのも、とても胸を打ちます。

アメコミって、もっと大雑把に「パワー=正義」だと思っていました。悩めるヒーロー、スパイダーマンなのですね。


3.「引退宣言」
『アメイジング・スパイダーマン』#50/1967年7月発表

正義のために戦ううちに、学業が疎かになり、大切なメイおばさんもほったらかしにしていたピーター。新聞「デイリー・ビューグル」には危険人物と報道され、ネガティブなイメージばかりなことにも思い悩む。雨の降る中、ゴミ箱にスーツを捨てて立ち去る姿は、苦悩した末を思わせるが当然明るい表情ではない。

久しぶりに手に入れた平和な日常、その中でもまたピーターは苦悩を続けています。
「僕が何もしなかったせいで 誰かが傷つくなんて 二度とあってはならない」とスーツを再び身にまとう展開こそ「我々が愛するヒーロー、スパイダーマンだ!」とカタルシスを感じました。

ちなみに、ラストカット「次回に続く」とあるのですが、本書は総集編なので残念ながら次のストーリーは載ってないのです。これは悔しい!


4.「スパイダーマンを集める少年」
『アメイジング・スパイダーマン』#248/1984年1月発表

9歳の少年・ティムの「スパイダーマンに会いたい」という夢を叶えるエピソード。

会いに行くきっかけとなった新聞記者、コノバーによるコラム記事がストーリーを誘導していますが、ティムとの会話ではスパイダーマン自ら誕生のきっかけやその能力を説明、スパイダーマンをよく知らない人にも自然とあらすじや自己紹介がされています。
これまでずっと正体を隠してきたスパイダーマンが、読者以外に自ら正体を明かす瞬間は総集編にもふさわしい素敵なエピソードだと思います。


5.「その後のクラッシャー・ホーガン」
『アメイジング・スパイダーマン』#271/1985年12月発表

これもスパイダーマンのいい話。
ピーターと対戦したこと以外は全てホラ話だった元レスラー、ホーガンの昔語りが、結果的に美談になるエピソード。

その場の空気を読んで、話をあわせるスパイダーマンが素敵! ホラ吹きながらも、ホーガンは根が悪い人じゃなくてよかった。

全編に渡って“いい話”の本エピソードですが、最後に悔やむのはやっぱりピーター。よいことをしているはずが、悲しさと表裏一体なのもスパイダーマンらしいのですが……。

ちなみに本書ではこのエピソードのみブラック・コスチュームです。


6.「ヴェノム再び」
『アメイジング・スパイダーマン』#317/1989年7月発表

元新聞記者のエディ・ブロックは、デマ記事を書いたとして解雇された出来事からスパイダーマンを恨んでいた。スパイダーマンとしばらく共存していたエイリアン共生体がそのエディと一体化し「ヴェノム」となってスパイダーマンを苦しめることになる……。

本書では唐突に登場する「ヴェノム」ですが、スパイダーマンへの恨みを持っているエディとかつて共にスパイダーマンであったエイリアン共生体との複雑な想いが絡み合っています。
エイリアン共生体はスパイダーマンを狙う単純なる悪、ではありませんでしたし、「悩めるヒーロー、スパイダーマン」に加えて「敵も悩み、苦しんでいる」というエピソードなのが新しいと思いました。

こういったエピソードが生まれたことは、読者の年齢層が成長し、大人も楽しんでいることを感じますね。

このエピソードは本書に収録された中で特に細かな描き込みが多いイラストでした。日本であれば“劇画調”でしょうか? シリーズは1つの「スパイダーマン」ですが、いろいろなイラストレーターが作画するアメリカのコミック事情をここで実感します。


7.「父と息子と罪と」
『アメイジング・スパイダーマン』#365/1992年8月発表

トカゲ男リザードとなってしまったコナーズ博士。息子ビリーのバースデーパーティの夜に現れたリザードは、自分が元に戻るため息子ビリーのDNAを入手する。その目的もわからずに、怯える家族と追い払おうとするスパイダーマン。
冷静になったコナーズ博士と、突如豹変するリザードとの入れ替わりにハラハラさせられる展開!

両親と、両親代わりのおじを失っているピーターにとって、博士の息子、ビリーを放っておくことができない。そんな中に現れたコナーズ博士。
例え許しがたいと思っていても父子の奥底で繋がる愛、肉親を失っているピーターの切ない思い、そして突然のメイおばさんからの連絡?!
「親子」というキーワードで展開される二重三重のストーリーがこのエピソードの面白さですね。


8.「オズボーンの遺産」
『スペクタキュラー・スパイダーマン』#189/1992年6月発表

スパイダーマンの宿敵であるグリーン・ゴブリンの、狂気に満ちたエピソード。
1ページ目の淡々としたコマ割に対して、次ページのカットがその妖しさを掻き立てる! 次々と仕掛けられるゴブリンの陰湿な仕掛けにどんどん読み進めると……!

グリーン・ゴブリンの正体は、ピーターの親友ハリー。ハリーには、初代グリーン・ゴブリンだった父の仇としてスパイダーマンへの復讐がありますが、同時に、ヒーローであるピーターに対しての悔しさや劣等感も感じていたのではないでしょうか。
本書収録3エピソード目「引退宣言」で1カット登場している彼は、まだピーター=スパイダーマンということを知らず、一点の曇りもない親友と感じます。
本エピソードで護送車に乗せられる直前、ゴブリンがスパイダーマンの正体を言わなかったのは、宿敵にとって「いつ公表されるか」という不安が引続き彼を苦しめる、というのを親友としてわかっていて、なのではないでしょうか。

本書のラストページを飾る、深く重いシーンだと思いました。

ゴブリンに誘拐されたハリーの家族3人のうち、大人にとっては受け入れられない事実ながら、息子のノーミーだけは父とのふれあいを無邪気に喜んでいます。拘束されたゴブリンの脇に寄り添うノーミーが決意したようにスパイダーマンを睨むシーンも、いずれ巡り来る運命の螺旋を感じずにはいられません。


■読後の余韻にひたりながら
冒頭のとおり、コミックのスパイダーマンは初めての体験でした。

様々な登場人物の関係を考えながら読み進めていくと、時間が経つのを忘れていました。解説リーフは綴じ込みではありませんが、2度目に読む際に傍らへ開いておくと、最初読んでわらなかった要素を、より深く味わえました。これはわかりやすい!本書掲載以後の1993年からの20年間でさらにどんなエピソードが広がっていったのかも期待が膨らみます。

ところで、アメコミを楽しむみなさんは普段どのように楽しまれてるのでしょうか。
読む前の事前知識は「入れる? 入れない?」「読み始めたら一気に? 楽しみながら少しずつ?」などなどこれぞという読書スタイルがありましたら教えてください。
まだまっさらなうちに、いろいろ試してみようと考えています。ご意見ご感想お待ちしてます。


それではまた次回!


(文責:石割太郎)