先週ついに発売された『バットマン&ロビン』。みなさんご覧いただけましたでしょうか?
あまりの厚み(と、もしかしたら値段)に思わずためらってしまった方もいるはず。そんなみなさんに向けて、今回は本作品の魅力をさらにもうひと押し、アピールしてみたいと思います。「またかよ!」と言わずにどうぞお付き合いを。それだけの魅力とお値打ちがある作品なんです。
▲『バットマン&ロビン』 グラント・モリソン[作]/フランク・クワイトリー他[画] 定価:3,800円+税 ●小社より好評発売中● |
“ラン(run)”とは何か?
アメコミでは同じ雑誌がライターやアーティストを変えつつ延々と続くことがよくあります。だから区切りとなる単位として、一定の作家チーム、もしくは一人のライターが一つの雑誌を担当している期間をよく“ラン”と呼ぶのです。たとえば1980年代だと、アラン・ムーアによる『スワンプシング』、クリス・クレアモントとジョン・バーンのコンビによる『X-MEN』などが名作ランと言われています(ちなみに、複数の号〔または雑誌〕にまたがったひとまとまりのエピソードは“ストーリーライン〔storyline〕”“ストーリーアーク〔story arch〕”などと呼ばれます)。
2009年夏にグラント・モリソンによって立ち上げられた新雑誌『バットマン&ロビン』ですが、彼が直接関わっているのは本書に収録されている第16号まで。以降は別の作家チームに引き継がれます。もちろん、モリソンによるバットマンの物語は2010年冬に再び彼が立ち上げた新雑誌『バットマン・インコーポレイテッド』に続きます。また『バットマン・アンド・サン』をはじめとする新サーガ第一部から持ち越している伏線もそこここにあります。
ですが、一人の作家によって一貫した流れで展開される“ラン”を余すところなく収録した本書は、モリソンのエッセンス、バットマンというキャラクターに託したビジョンが、日本人にとってもっとも把握しやすい形で集約された1冊といえるでしょう。
アメコミの醍醐味の一つとして、複数の雑誌にまたがって大事件が起こる“クロスオーバー”があります。横の広がりである“クロスオーバー”も、日本人にとってなかなか満喫することができない刊行形態ですが、縦の流れである“ラン”を一気読みできるのも、また貴重な機会かと。
そしてモリソンと組んだアーティストも、個性と実力を兼ね備えた、いずれ劣らぬ名手ぞろい。
冒頭を飾るのはモリソンとの名コンビで知られるフランク・クワイトリー。エピローグ(……と次へのプロローグ)的な読み切り『バットマンの帰還』の作画はデイビッド・フィンチ。この二人の“スーパースター”級アーティストに挟まれて、エピソードごとに異なるスタイルを持った気鋭のアーティストたちが腕を競っています(キャメロン・スチュアート、フレイザー・アービングなど“モリソン組”ともいえるアーティストの起用もファンには嬉しいところ)。
というわけで、作家的気質を持ったカリスマ・ライターが一流のアーティストと組んで本気で挑んだ極上のコミック・エンターテインメント! グラント・モリソンのエッセンスが詰まった1冊! 『バットマン&ロビン』、お勧めです。
本書を読んでフランク・クワイトリーの個性的なアートが気に入ったみなさんにおすすめのコミックは『JLA:逆転世界』。グラント・モリソンとの抜群のコンビネーションが、(本書に比べると)お手軽に楽しめます。
そしてデイビッド・フィンチの“これぞアメコミ!”な重厚な絵柄が気に入った方々には、『ダークナイト:姿なき恐怖』を。同書で彼は脚本にも関わり、セルフプロデュースによる魅力が満喫できます。そして、今回ひときわ異彩を放っていたフレイザー・アービングが気に入った方は、もしかしたらすぐに再会できるチャンスが……。
それでは今日はこのへんで。
(文責:中沢俊介)