ネバーランドに迷い込んだまま出口を見失ったピッカピカの小学30年生、山口大介です。
これまで、映画雑誌やエンタメ雑誌、書籍などの編集を経験し、この度ご縁があってアメコミの殿堂・ShoPro Booksの一員に加わりました。ハードコアな読者の多い本サイトで執筆するということで緊張していたところ、ボスの不意を突く予告ツイートがあり、一層ビクビクしております。どうか、お手柔らかにお願い申し上げます。
さて、今回初めて「アメコミ魂」を担当させていただくので、私とアメコミの出会いについて軽くお話すると、思い返すこと20年ほど前、私が高校生の頃、マクファーレン・トイズ製の『スポーン』フィギュアが一大ブームになりました。それをきっかけにアメコミ・ファンとなった私は、ベインの生い立ちに涙し、ジョン・コンスタンティンの煤けた背中から人生の意味を感じとるピーターパン風味の中年に成長、現在にいたります。ちなみに、最近のお気に入りはシンビオート全般。いかついルックス、正気と狂気の間で揺れ動くキャラクター、縦横無尽に暴れまわる触手……タマりません。
「アメコミ魂」読者の皆さまはご存じかもしれませんが、シンビオートといえば、スパイダーマンがうっかり地球に持ち帰ってしまった宇宙寄生生物のこと。ブラックスパイダーマンから分裂し、ヴェノム、カーネイジ、トキシン、スコーンなど多くのキャラクターが繁殖。時にはヒーロー、時にはヴィランとあちこちで騒動・事件を起こしております。
とまあ、なんで私の身の上話からシンビオートの件に話題を変えたかと申しますと、今回ご紹介させていただく作品が『デッドプールVS.カーネイジ 』だからでございます。本稿では、小社より8月26日に発売される本書の魅力を、少しばかりご紹介できたらと思います。
『デッドプールVS.カーネイジ』 カレン・バン[作] サルバ・エスピン他[画] 定価:1,800円+税 ●2015年8月26日発売予定● |
タイトルからもおわかりいただけるように、今度のデップーのお相手はカーネイジ。殺人鬼、クレタス・カサディにシンビオートが寄生して生まれた凶暴極まりないヴィランです。クロスオーバー・イベント『マキシマム・カーネイジ』(1993年5~8月)では、スパイダーマン、ヴェノム、キャプテン・アメリカなど、多くのヒーローを相手に暴虐の限りを尽くした問題児であります。その詳細は、本書付属の解説書に年譜(翻訳者・高木亮氏による力作!)としてまとめてありますので、ぜひお手に取って確かめてください。
頭のネジがユルんだデップーと、そもそも頭にネジ穴すらないカーネイジ。そんな〝二狂〟がクロスオーバーするワケですから、事態は加速度的にトンデモない方向へと発展していきます。
分離されていたクレタスとカーネイジが、再び融合し刑務所から脱走したことをきっかけに物語は始まります。逃亡の道すがら、衝動のおもむくままに殺人を繰り返すカーネイジ。その事件をたまたまTVのニュースで目にしたデップーが、「カーネイジを殺すことが俺ちゃんの使命!」という天啓を受けて(電波を受信して)追跡を開始。そして、カーネイジの恋人・シュリークも参戦し、バイブル・ベルト(アメリカ中西部から南東部にかけて広がるキリスト教原理主義者が多く住むエリア)を血で染め上げる戦いの火ぶたが切られます。
〝再生可能で更正不可能〟なデッドプールと究極のサディスト・カーネイジ。両者が繰り広げるエクストリームなバトルは、まさに手に汗握る大スペクタクル。しかし、本書の見どころはそれだけではありません。近年、映画・ドラマなどでよく描かれるレッドネック(保守的な白人貧困層)の描写が、本書にはチラホラと出てきます。アメリカの暗部が舞台立てとなって、作品にノワールな雰囲気を与えているのです。大ヒット犯罪ドラマ『ブレイキング・バッド』などで描かれた世界観がお好きな方も、きっと本書を楽しめるハズです。
従来のデッドプールの〝冗舌さ〟を楽しめるだけでなく、ホラー、ノワールのテイストまで感じさせる『デッドプールVS.カーネイジ』。その多層的な魅力を存分に味わってください!
(文責:山口大介)