『バットマン・インコーポレイテッド:デーモンスターの曙光』の発売が迫ってきました! そう、10月に発売された『バットマン:インコーポレイテッド』に続く、グラント・モリソンによる“バットマン新サーガ”第三部の第2巻です。
▲『バットマン・インコーポレイテッド: デーモンスターの曙光』 グラント・モリソン[作] クリス・バーナム他[画] 定価:本体2,200円+税 ●12月19日頃発売● |
第1巻では、“バットマン会社”を設立したブルース・ウェインが世界各国の“バットマン的なヒーロー”を集めて、謎の秘密結社“リバイアサン”と熾烈な戦いを繰り広げました。ゴッサムシティを飛び出して、世界各国はもちろん宇宙や電脳空間にまで戦いの舞台を広げた前巻に対して、本書では焦点をぐっと絞って、戦いの中心をゴッサムシティに据え、テーマとしてはブルース・ウェインと息子ダミアン・ウェインの関係が掘り下げられています。
……ということで、今回は『デーモンスターの曙光』の予習代わりに、小社刊行コミックを中心にして、ダミアンのこれまでの歩みを簡単に振り返ってみたいと思います。
①『バットマン・アンド・サン』
(新サーガ第一部第1巻)
ダミアン・ウェインは、ブルース・ウェインとタリア・アル・グール(バットマンの宿敵ラーズ・アル・グールの娘)のあいだの子供です。初登場は1987年の描きおろしグラフィック・ノベル『バットマン:サン・オブ・デーモン』。ですが、その時の彼はまだ生まれたばかりで、名前も付けられていませんでした。しかもその後、ブルースとタリアの子供はいわゆる“黒歴史”として、ほぼ忘れられた存在になってしまったのです。そんな設定を発掘し、“ダミアン”という名前で蘇らせたのがグラント・モリソン。2006年に『バットマン』誌のメインライターに就任したモリソンは、彼のランの幕開けとなる第655号でさっそく(まずはシルエットとして)ダミアンを登場させました。つまりダミアンは、モリソンのバットマン新サーガを象徴するキャラクターなのです。
小社より刊行された『バットマン・アンド・サン』には、上記第655号以降のエピソードが収められています。また、本編に加えて冒頭にはグラフィック・ノベル『サン・オブ・デーモン』も収録されて、ダミアンのルーツがまるごとわかる1冊となっています。また、ぜひご注目いただきたいのが巻末を飾る第666(!)号。こちらのエピソードでは、ブルースの死後、ダミアンがバットマンを引き継いだ未来の様子を垣間見ることができます。
こうして登場したダミアン・ウェイン。父親を知らないまま、暗殺者集団“リーグ・オブ・アサシンズ”に育てられた彼は、父親に憧れながらも殺人をいとわず、バットファミリーの闖入者として波乱を巻き起こします。とくに当時ロビンだったティム・ドレイクとの因縁はかなりのもので、クロスオーバー『バットマン:ラーズ・アル・グールの復活』(新サーガ第一部第2巻)で、死から蘇ろうとするラーズの新たな依り代候補として二人一緒に命を狙われたりもしました。
②『バットマン:バトル・フォー・ザ・カウル』
▲『バットマン: バトル・フォー・ザ・カウル』 定価:本体2,000円+税 ●好評発売中● |
③『バットマン&ロビン』(新サーガ第二部第1巻)
▲『バットマン&ロビン』 定価:本体3,800円+税 ●好評発売中● |
本書では、とうとう新ロビンになったダミアンと、新たなバットマンの“新生ダイナミック・デュオ”の活躍が満喫できます。グラント・モリソンいうところの“情け容赦ないロビンと快活なバットマンという逆転した関係性”(モリソン著『スーパーゴッズ』より)は兄弟のようでもあり、ちょっと微笑ましさすら感じさせます。ここまでダミアンの動きを追いかけていると、“あの問題児が、よくぞここまで成長を”……なんて感慨も。邦訳版アメコミでは、なかなか味わえない読書体験ではないかなと思います。
※ちなみに、別次元“エルスワールド”の物語では、ダミアン以前にブルースとタリアの子供が登場したことがあって、名作『キングダム・カム』では、そんなキャラクターの一人である“イブン・アル・ズファッシュ”の姿を見ることができます。
さて、こんな流れを前提に新サーガ第3部が始まったのですが、ここまで触れていなかった事柄が一つ……。じつは、前巻『バットマン:インコーポレイテッド』と本書『バットマン・インコーポレイテッド:デーモンスターの曙光』のあいだには、DCコミックス全体を巻き込んだ一大リランチ“ニュー52”が起こっているのです。そのため、『デーモンスターの曙光』ではキャラ設定のいくつかに変更が見られたりします。ですが読み始めると、不思議と違いは気にならず、むしろますます激しさを増すリバイアサンとの戦いに圧倒され、ブルースとダミアンという父子の絆に心を揺さぶられ、ページを繰る手が止まらなくなってしまいました。前巻とは一転して舞台を限定し、キャラクターの感情に焦点を当てているからでしょうか(具体的な違いは、翻訳者の高木亮さんが解説してくださっています)。
ではでは、今日はこんなところで失礼します。
(文責:中沢俊介)