2014年5月12日月曜日

アメコミ初心者が『ウォッチメン』を読む

こんにちは!

皆さん、ゴールデンウイークはいかがお過ごしでしたか?

映画『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』『アメイジング・スパイダーマン2』が日本でも公開されましたし、充実した日々だった方も多いのではないのでしょうか。映画といえば、6月20日公開予定の『300〈スリーハンドレッド〉 帝国の進撃』は小社よりアートブックも刊行を控えていますので、劇場とあわせてこちらもぜひお楽しみに!

さてさて今回のブログ、読んでみたのは『ウォッチメン』(2009年小社刊)です。
『ウォッチメン
アラン・ムーア[作]/デイブ・ギボンズ[画]
定価:3,400円+税
●小社より好評発売中●
原作は1986年から1987年にかけて刊行された全12号の「グラフィック・ノベル」で、日本でもよく知られている実写版映画は2009年に劇場公開されました。それまで“子供向け”と認識されていた「ヒーローコミック」に、大人でも楽しめる本格的なストーリーを持たせたこの作品は、アメコミ界へ現在まで至る大きな影響を与えたといわれています。巻末には作者アラン・ムーアによる解説キャラクター設定にまつわる資料などを収録して、発行から5年経ったいまもなお大好評発売中です!
不朽の名作と呼ばれる本作、内容はぜひとも本編を読んでいただきたいのですが、謎解きの要素だけでなく、「スーパーヒーロー」の存在する意義や、持つ力をどのように使うべきか現実世界にヒーローがいたらどういう存在なのだろうか、と考えるようになりました。

この『ウォッチメン』にはバットマンやスーパーマンといった、これまでに活躍してきたアメコミのヒーローは登場しません

劇中で活躍している(していた)ヒーローたちはそれぞれの歴史を積み重ねていますが、読者は彼らについて何も知りません。その知らないヒーローたちがどんなキャラクターか、コミックのストーリーで触れられるほかにエピソードの間で挟まれる書面や文章が語ってくれます。ヒーローを理解する大事なエピソードですので、決して飛ばさないように! 気づけば、以前からからそのヒーローたちを知っていたような気持ちになることでしょう。

さらに、ストーリーの主軸と平行して登場人物が読んでいる「劇中コミック」は作品世界での人気コミックという設定ですが、それだけでも1冊のコミックとして読めそうな内容。そんな二重三重に要素の絡みあうストーリー展開に、ミステリーのような驚きが溢れています。

作品中の“アメリカ”は、本作が発表された年代と同じ1985年の設定ですが、いくつかの歴史が異なっているパラレルワールドです。

ヒーローがいたからこそ、現実の世界とは少し違う1985年のアメリカ。技術の革新や国内の安定した情勢とは裏腹に、ソ連(ソビエト社会主義共和国連邦)との間で続く冷戦は、1985年当時の実際の冷戦構造よりもさらに緊迫化した世界になっていて、地球規模で見るといつ核戦争が引き起こされてもおかしくない状況……。

この空気感は、いま20代の読者の方にはリアルタイムではないやもしれませんが、一触即発で地球が滅びる、とまで言われていたのです。『ウォッチメン』で特徴的な時計の表示も、「世界終末時計」をもじったものだと気づけば「なるほど!」と唸りました。

「ウォッチ」が時計だと思ってた未読のアナタ、間違いじゃないけど違います!(笑)

ストーリーが進むにつれ、登場するヒーローたちのもつ「正義」とはなにか、が語られていきます。
かつては正義の存在だったはずが、力なく屈することもあれば憎悪の対象だった出来事が、いま思えばすべてが悪ではなかったと思えたり正義を貫く姿勢は変わらないけれど、そのための手段は個人によって正反対であることも。

ストーリーが進む中で「一番悪いヤツ」という印象を持っていたはずの1人に、読後に振り返ってみると「一番ヒーローらしいかも」と思えてしまった自分に驚きました。他方で、全体的な正義のため細かな悪は目をつぶることもある、というヒーローは、実は一般人の我々の感覚に近いのかもしれません。でもそれは我々が憧れた「正義のヒーロー」なのでしょうか……?

コミックでは語りきれなかった事柄は、巻末に収録された作者のアラン・ムーアによる解説と設定資料によってさらなる奥深さへといざなってくれます。作品からの世界観への甘美な誘惑!

本書には日本語版の解説は収録されていません。これは全世界で原書に忠実なものを刊行して欲しい、というアラン・ムーアとDCコミックスの意向として、なのですが、簡単な人物紹介と時間軸を追った年表は封入のリーフにも触れられています。もちろん一度読み終わったあとで!がオススメですよ。

今回「難解だよ?」と言われながら渡された『ウォッチメン』でしたが、作品世界の奥にまで引きずり込まれれいくような感覚は、マニア気質のワタシにはたまらない快感でした。コミックのコマを忠実に実写で再現したという映画版についても、ラストが少し異なるようですので、こちらも改めて楽しんでみたいと思います。

ところで作者アラン・ムーアの作品といえば、小社より『プロメテアⅠ』今月発売予定で控えております。次回のテーマはその『プロメテアⅠ』ですので、お楽しみに。

それではまた!


(文責:石割太郎)