ついにタイトルも決まった映画『バットマンVスーパーマン:ドーン・オブ・ジャスティス』。バットスーツやモービルをツイッターでチラ見せしたりして制作進行中をアピールしてますが、現時点での公開予定日は2年後の2016年5月と、まだまだ待たされそうですね。
でも、なんといっても今年はバットマン生誕75周年。日本版コミックはそこまでお待たせしません!
▲『バットマン:ブラックミラー』 スコット・スナイダー[作] ジョック、フランチェスコ・フランカビラ[画] 2,600円+税 ●5月28日発売予定● |
『バットマン:ブラックミラー』は、2011年に刊行された『ディテクティブコミックス』#871~#881をまとめた作品。“ニュー52”によって雑誌が新創刊される直前の物語にあたります。ということは、1937年以来(バットマンの登場は創刊の約2年後)続いてきた伝統ある雑誌の、掉尾を飾る作品なのです!
そんな大役を任されたのは、当時若手のなかでも将来を嘱望されていた精鋭ライター&アーティストたち――。 まずライターはスコット・スナイダー。小説家として2006年に処女短編集を上梓すると、スティーブン・キングに「T・コラゲッサン・ボイル(映画にもなった『ケロッグ博士』の著者)の再来!」と激賞された俊英です。やがて2010年にDC傘下のバーティゴ・レーベルでオリジナル・コミック『アメリカン・バンパイヤ』を創刊すると、キングがバックアップ・ストーリーを手がけたこともあって話題を呼び、翌年にはアイズナー、ハーベイの二大コミック賞を受賞したのです。
本作『ブラックミラー』が完結してニュー52が始まると、彼は月刊誌『バットマン』のライターに就任しました。そうして生まれたのが小社刊行の『バットマン:梟の法廷』。その後もヒット作は続き、さらにジム・リーと組んだ『スーパーマン・アンチェインド』や、バットマン生誕75周年企画の週刊誌『バットマン・エターナル』を立ち上げるなど、いまやDCの将来を担う新世代のトップスターになっています。
アーティストの二人も要注目です。 イギリス人アーティストのジョック(本名:マーク・シンプソン)といえば、『ルーザーズ』と『グリーンアロー:イヤーワン』。前者は2010年に映画化されたのですが、彼の絵柄が色濃く反映された画面作りになっていました。そして後者は話題のドラマ『ARROW/アロー』の実質的な原作となった作品。DCユニバースのなかでも比較的マイナーなキャラクターたちが映像化にまでたどり着けたのは、“時代の気分”を感じさせる、彼のシャープで鮮烈な絵の魅力によるところも大きいでしょう。『DMZ』のブライアン・ウッド(ゲーム会社ロックスター出身)と並んで、いま非コミック業界に最も愛されているコミック・アーティストといえます。
元々カバーアーティストとしても評価が高かったうえに、最近ではポスターなど映画関係の仕事も増えてたりして
(2012年版『ジャッジ・ドレッド』のコンセプトアートも担当)、コミック本編を手がける機会もすっかり減ってしまったので、その意味でも本作は貴重かなと。▲『バットマン:梟の法廷』 |
アーティストの二人も要注目です。
元々カバーアーティストとしても評価が高かったうえに、最近ではポスターなど映画関係の仕事も増えてたりして
もう一人のアーティストはイタリア人のフランチェスコ・フランカビラ。パルプ小説を彷彿とさせるノスタルジックな世界を妖しい色使いで描き、ジョックと好対照をなしています。イタリアといえば悪漢コミック“フュメッティ・ネーリ”など独自のコミック文化がありますが、そんな伝統を感じさせたりもします。最近ではローン・レンジャーやフラッシュ・ゴードンのコミック版のカバーを手がけてアイズナー賞を受賞したり、1940年代から続く老舗ユーモアコミック『アーチー』のゾンビ版を手がけたりして、評価を高めています。
個人的にはこの人の描くレッドロビンとハービー・ブロックがツボ! 特に前者、あまり登場しないのですが、チープなレトロ感覚が不思議とマッチしていて、キャラクターの新たな魅力が発見できました。
タイムライン的にはブルース・ウェインが帰還して、『バットマン・インコーポレイテッド』が始まった頃にあたるこの作品、物語の構成としては、ジョックのパートではディック・グレイソンが中心になって、バットマンを襲名した彼が自分の役割に自信を持てないながらも事件に挑む様子がみずみずしい筆致で描かれ、フランカビラのパートではゴードン本部長を中心に据え、過去と向き合い、葛藤しながら前に進もうとする様子がムーディに描かれます。そんな二人を結びつけるキーパーソンが、ジェームズ・ゴードン・ジュニア! ……そう、2008年の映画『ダークナイト』でトゥーフェイスに誘拐された、ゴードン本部長の息子です。彼の思いもよらぬ恐ろしい成長ぶりは、ぜひみなさんに読んでいただきたいところです。
ニュー52が始まっていったん“なかったこと”になりましたが、2年ほどの在任期間のあいだ、ディック・グレイソンはいろんな雑誌でバットマンとして活躍していました。本書の巻末では翻訳者の高木亮さんに、そんなディック版バットマンの足跡をまとめていただいています。
▲『バットマン:ゲート・オブ・ゴッサム』 |
ともあれ、作中のキャラクターのみならず、アメコミ界の過去と未来を繋ぐ重要作でもある『バットマン:ブラックミラー』、自信をもってお勧めします!
来月は、スコット・スナイダーも関わった『バットマン:ゲート・オブ・ゴッサム』が発売予定です。こちらもお楽しみに!
ではでは、今日はこんなところで。
(文責:中沢俊介)