2017年7月11日火曜日

我らのウルヴァリンが日本で大暴れ!



「アメコミ魂」読者のみなさん、こんにちは!

梅雨はいつ明けるのでしょうか。毎日ジメジメ…。蒸し暑くて、もうすでに夏バテ気味なんて方もいらっしゃるのではないでしょうか。そんな方々に今週も、暑いことなんか忘れさせてくれる熱~いアメコミの最新情報をお届けしていきます!

アメコミファンにはうれしいことに、現在、映画『ローガン』がヒット中。これはすでに年老い、ミュータントの能力もなくなりつつある一人の男としてのウルヴァリンの物語です。この映画の影響もあってか、5月に弊社から刊行した『ウルヴァリン:シーズンワン』も好評をいただいております。こちらは、彼がヒーローになる前のオリジンを描いたストーリーで、ウルヴァリン入門書として読めるおすすめの一冊です。

さて今回ご紹介するのは、このウルヴァリンの新作『ウルヴァリン:バック・イン・ジャパン』です。これまでのアメコミファンはもちろん、「X-MENは映画でしか知らない」、「映画『ローガン』で彼のファンになった!」という新しいファンにはぜひ読んでいただきたい作品です。

『ウルヴァリン:バック・イン・ジャパン』
ジェイソン・アーロン[作]アダム・キューバート他[画]
定価:本体2,000円+税
●好評発売中●


ウルヴァリンという男の魅力


なぜなら、この作品は「ウルヴァリン」という一人の男としての魅力が最高濃度でギュッと詰まった内容に仕上がっているからです。だから、「ウルヴァリンに興味なんかもったこともない!」という方でも大丈夫。幅広い読者に読みやすく、熱くて、時にはセンチメンタルにもなる緩急のついた人間ドラマにスッと没頭できると思うのです。

ウルヴァリンはX-MENの中でも特に知名度も人気も高いキャラクターですが、はたしてそれはなぜなのか。過去の多くの作品を振り返ってみると浮かび上がるのは、彼の魅力は決してミュータントとしての強さだけではないということです。

過去に起こった多くの悲劇や彼が犯した罪の数々、あるいは忘れられない後悔を背負ってしまった人間の苦悩。普通なら、もう「再起できません…」と心が折れ、へたれ込んでしまうプロフィールがあるのです。しかし、そんな状況を受け入れ、なんとか乗り越えていく強さを持ったキャラクター造形にこそ、読者は惹かれてきたのではないでしょうか。

そして逆を言えば、マーベルは長い時間をかけて、この一人の男について実に多彩なストーリーを展開してきた、ということなのです。ひとつのキャラクターを一途に、大切に。そんな作り手の姿勢を思えば、この最新作もいっそう味わい深いものとなってきます。
それでは、ここで本書のあらすじを紹介します。


本書のあらすじ


謎の男が忍者集団ハンドとヤクザとの抗争をあおり、日本の闇社会の支配権を握ろうと画策していた。

さらに彼は、ウルヴァリンの宿敵であるセイバートゥースらを仲間にしたうえ、シルバーサムライ(銀色の鎧をまとった侍の格好をしたミュータント)の若き息子を引き入れるため、その恋人アミコを誘拐する。

しかし、それが彼らの誤算の始まりだった。なんと、アミコはウルヴァリンが引き取り、かわいがっている養女だったのだ…。

これを読んで「ん?」って「全然内容がわからないよ」となった方もいるかと思います。そうちょっと分かりにくいかも。

そこで本書の魅力を紹介する前に、この作品にまつわるいくつかのキーワードについてふれておきますので、少しだけお付き合いください。

この作品には描かれてはいないけれど、その背景を知れば、ウルヴァリンの心情をより深く理解でき、ひとつのセリフ、ひとつのコマに込められた意味や作者の意図を掴む一助となるかもしれません。


ウルヴァリン単独誌の集大成として


この作品は2012年に刊行された『ウルヴァリン』♯300~304号をまとめたもので、300号を超えるウルヴァリン単独誌の集大成ともいえる作品なのです。

ウルヴァリンの単独誌のスタートは1982年でなんと35年も前。数多くのコミックキャラクターの中でもひとつのチームの、しかもそのスピンオフ・キャラクターとしてこれだけの作品を出したのは、ウルヴァリンだけではないでしょうか。

本書では過去にウルヴァリン作品を手がけてきた代表的なアーティストたちが勢ぞろいでアートを担当しています。そのため、ウルヴァリン一人とって見ても、まったく作風が異なっているので、どんなタッチになっているのか、いろいろなウルヴァリンに出会えることを楽しみにしてください。


日本はウルヴァリンの第二のルーツだった


本書のタイトルには「バック・イン・ジャパン」と付いていて、日本に「GO」ではなく、「BACK」となっていることに、「あれ?」と思った方もいるのではないでしょうか。

私も初めは、アメコミヒーローのウルヴァリンが過去に日本となんらかの関係があったの?と不思議でしたが、実はそのつながり、ずいぶんと前からあったのです。

カナダ生まれの彼と日本との関係が描かれるようになったのは、1979年に刊行された作品で、生涯の恋人・矢志田マリコに出会ったことがきっかけ。その後、ウルヴァリンと日本との結びつきがいろいろな作品で明らかになっていきます。

青年期に侍について書かれた本に出会ったり、船乗りとなって過ごしていた時期にはたびたび日本を訪れていたり。1940年代には兵士として日本に渡っていて、広島でも戦時下を過ごしています。

マリコに一目ぼれしたウルヴァリンですが、彼女の父親・矢志田信玄は表と裏社会の両方で権力拡大をねらう名家の主。彼は本書にも出てくるユキオという女暗殺者に娘を見張らせるのですが、彼女もまたローガンを愛し彼の相棒ともなり、養女であるアミコの世話までするようになったのです。

本書は、そのユキオやアミコを巻き込んでのストーリーとして展開していきます。

本書は、あらすじにもあるとおり、ハンドという忍者とヤクザとの抗争が背景となっています。海外で日本の代名詞ともなっているこの両者を全面に出している点で、「もうジャパニーズテイスト全開ですよ」のサインと受け取ってください。

もちろん日本人からすると、違和感ありまくりでツッコミどころは満載。忍者は「忍びの者」という影の存在ではなく、これでもかと分かりやすく敵の前に現れてくるし、ヤクザは飛行機からパラシュートを付けてパンツ一丁で降りてきてはアメリカの特殊部隊なみの派手な攻撃を繰り出してくるのです。

でもこれは作り手のサービス精神。読者をこれでもかと楽しませようとする姿勢のあらわれだと感じるのです。眉をひそめたりするのは簡単です。パン一のヤクザなんて空から降りてくるわけないし、ふんどし姿のヤクザがフルフェイスをかぶり、バイクにまたがったまま刀を振り回すなんてこともないけれど、肌全面には細かくびっしりと刺青が描き込まれているのです。そのための裸なのです。リアリティは追求されていません。ですが、どんな絵柄がそこでは描かれているのか。それはぜひ読んで確かめてください。こんな楽しみ方をできるのもコミックならではでしょう。


細かく描き込まれたアクションシーン


本書の大きな見どころは間違いなくアクションシーンです。ウルヴァリンにセイバートゥース、無数の忍者とヤクザのバトル。ひとコマの中で隅から隅までびっしりと人が配されている様は、ルネサンス期の宗教絵画を見ているようで迫力満点です。そこでは、コマせましと刀と刀がぶつかり、腕がふっ飛び、頭部が転がり、鮮血が舞っているのです。こういったシーンこそ早く読み進めるのではなく、一つひとつのコマをアートとしてじっくりと眺めていただきたい! アメコミがもっともっと楽しめます。

特に、冒頭の5ページはセリフ少なく語られる中、静寂と騒乱の対比がなされ、「さぁ、来るぞ!」という確かな予感のもと、ウルヴァリンの爆発的な強靭さが圧倒的な迫力で描かれています。本書の中でも傑出したシーンではないでしょうか。この数ページにふれるだけでも本作品の価値はあります。

「こんなウルヴァリンが見たかった!」というファンの潜在的な欲求に応え、かつ期待をはるかに上回る仕上がりになっていると思います。


父親としてのウルヴァリン


本書が他作品と大きく異なるのは、少女の父親としてのウルヴァリンが描かれていることです。彼が養女アミコと修羅場を共にし、一緒になって戦うという場面が何度か出てきます。

そこではウルヴァリンは、いつものように自由に戦うことはできないのです。娘を気にして自分の防御はおろそかになるし、娘への攻撃を彼は自らを犠牲にすることで防いだり。いつものウルヴァリン100%にはなりにくく、いつも以上にダメージを受けてしまう。その姿は満身創痍で決して格好いいものではありません。

しかし、それこそがウルヴァリンのまぎれもない本性。その姿は、男性の目から見てもグッと来るものがあります。そこまでして守るものが彼にはあるのです。

終盤、アミコに「もう行っちゃうの?」と悲しげに言われた彼が無言で見せる表情。それがどんなものなのか。このひとコマにウルヴァリンのキャラクターが凝縮して表現されていると言っても過言ではないでしょう。

この作品はミュータントとしての強さ、特殊性を誇示するだけではありません。というより、それはほんのごくわずか。あくまで一人の人間として強くあろうとする男の姿こそが、読む人の胸を打つ物語となっています。

本当のウルヴァリン、そして新たなウルヴァリンの一面にふれてみたい方に、強くおすすめする一冊です。

それでは、また来週お会いしましょう。

(文責:木川)


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