「アメコミ魂」をご覧のみなさま、こんにちは!
梅雨真っ只中。毎日雨でうんざりしちゃいますね。そこで今日は雨の日に読むのにぴったりなアメコミをご紹介します。
6月21日に刊行されたばかりのバットマンの新作『バットマン:ブルーム』です!
スコット・スナイダー他[作]グレッグ・カプロ他[画]
定価:本体2,500円+税
◆好評発売中◆
なんで雨だとバットマンなのかって?
バットマンといえばゴッサムシティ、ゴッサムシティといえば雨ですよ!
「ゴッサムは暮らしやすい街じゃない。危険だらけで雨も多い」とは、『ゼロイヤー陰謀の街』100ページでのブルース・ウェインのセリフです。
暗い気分のときは暗い曲を聴くと元気が出る。心理学でいう「同質の原理」です。
アメリカの精神科医アルトシューラーが提唱した理論だそうです。
雨の日には、雨の多いゴッサムを舞台としたバットマンを読んで気分爽快になりましょう!
ところで6月最終週の東京の天気は、月=雨、火=曇り、水=雨、木=曇り、金=雨、土=雨となってます。「これはさすがにうんざりするなー、もっとひどい天気の場所はないのか」と思って世界の天気を調べてみたら、下には下がいました!
なんと29日連続雨マーク!
どうですか、日本はココよりマシだと思うと、ちょっと元気が出ませんか?
これを心理学では「下方比較の法則」といいます。落ち込んだときは、積極的に下方比較をすることで気持ちが回復しやすくなるのは、科学的にも証明された真理だそうです。
さあ、気分も大分晴れやかになってきましたね!
……え、ならない?
そんな陰気な考え方を見せられたら、余計暗い気持ちになってきた?
……失礼しました。
では気を取り直して、改めて爽快な『バットマン:ブルーム』の世界に入っていきましょう!!
▐「The New 52!」バットマンシリーズの中での『バットマン:ブルーム』の位置づけ
本作は、2013年1月から小社から刊行してきたニュー52バットマンの12巻目です。
そして、次号『バットマン:エピローグ』でニュー52バットマンはついに終幕を迎えます。その後、いよいよ今年の8月から新しいシリーズ『REBIRTH(リバース)』が始まるわけですが、リバースの話は今回は一旦置かせていただきます。
よく読者からアメコミは「難しい」と言われます。それは話の時系列やエピソードがあっちこっちに行って混乱しやすいからだと思います。また特にニュー52バットマンは刊行点数も多くストーリーの流れを全て把握するのが一苦労です。
かくいう私もニュー52バットマンを読んでいて、話の流れを掴めず混乱しました。そこで、ここでニュー52バットマンを分かりやすく整理してみたいと思います。
まずは単純に、刊行順に並べると以下のようになります。
(1)『バットマン:梟の法廷 (THE NEW 52!)』 2013年1月刊行
(2)『バットマン:梟の街 (THE NEW 52!)』 2013年7月刊行
(3)『バットマン:梟の夜 (THE NEW 52!)』 2013年8月刊行
(4)『バットマン:喪われた絆 (THE NEW 52!)』 2014年7月刊行
(5)『ジョーカー:喪われた絆(上) (THE NEW 52!)』 2014年8月刊行
(6)『ジョーカー:喪われた絆(下) (THE NEW 52!)』 2014年9月刊行
(7)『バットマン:ゼロイヤー 陰謀の街 (THE NEW 52!)』 2015年3月刊行
(8)『バットマン:ゼロイヤー 暗黒の街 (THE NEW 52!)』 2015年6月刊行
(9)『バットマン:真夜中の事件簿 (THE NEW 52!)』 2016年2月刊行
(10)『バットマン:エンドゲーム (THE NEW 52!)』 2016年9月刊行
(11)『バットマン:スーパーヘヴィ』 2017年5月刊行
(12)『バットマン:ブルーム』 2017年6月刊行
(13)『バットマン:エピローグ』 2017年7月刊行
足かけ5年に渡って積み上げた刊行点数は総勢13巻! 圧倒されますね~。
これを分かりやすく整理してみましょう。
まず、全13巻のうち、(3)、(5)、(6)は外伝になります。ですのでこの3冊はメインストーリーから外れます。
また、(9)と(13)は短編集になります。メインストーリーである原書『バットマン』に属するエピソード群ではありますが、読み切り短編を集めたものなので、こちらも最悪読まなくても話は理解できます。
次に、残った8冊を物語の時系列に並べ替えると、
(7)『バットマン:ゼロイヤー 陰謀の街 (THE NEW 52!)』
↓
(8)『バットマン:ゼロイヤー 暗黒の街 (THE NEW 52!)』
↓
(1)『バットマン:梟の法廷 (THE NEW 52!)』
↓
(2)『バットマン:梟の街 (THE NEW 52!)』
↓
(4)『バットマン:喪われた絆 (THE NEW 52!)』
↓
(10)『バットマン:エンドゲーム (THE NEW 52!)』
↓
(11)『バットマン:スーパーヘヴィ』
↓
(12)『バットマン:ブルーム』
という順番になります。
つまり(7)と(8)は、『ゼロイヤー』という名のとおり、ブルース・ウェインがバットマンになる以前から始まる物語であり、実は時系列的にはシリーズの一番最初にくる話なんです。ですので、ニュー52バットマンは(7)から読んだ方が分かりやすい、と個人的には思ってます。
また、各巻の関係性を見ると……
(7)と(8)は『ゼロイヤー』の上下巻、(1)と(2)は『梟(ふくろう)』シリーズの上下巻、(4)と(10)はそれぞれ独立した巻、(11)と(12)は『スーパーヘヴィ』上下巻という関係になってます。ですので、(1)と(2)、(7)と(8)、(11)と(12)は、両巻をセットで読む方が楽しめます。
つぎに、各巻での主人公ブルース・ウェインの年齢を時系列に当てはめてみると、以下のようになります。
(7)=25歳
…(7)と(8)はひとつながりのストーリーなので。
(8)=25歳
…228ページでアルフレッドがブルースに向かって「あなたは若い。まだ25歳です。」というセリフがある。
(1)=31歳
…(7)の解説書1ページ「本書は現在より6年前の出来事を描いている」との記述から分かる。
(2)=31歳
…(1)と(2)はひとつがなりのストーリーなので。
(4)=31歳または32歳
…64ページのジョーカーの「今の王(バットマンのこと)を見ろ!フクロウすら退治できないじゃないか」とのセリフから、(4)は(2)より後の話であることが分かる。
(10)=32歳
…129ページでブルース・ウェインが「お前はどこにでもいる32歳なんかじゃないんだ」と独り言をいうシーンがある。
(11)=32歳
…8ページのナレーションで「ジョーカーがおぞましいエンドゲームウィルスをまいて以来、2ヶ月が経ちました」との記述から(10)から間もない時期だと分かる。
(12)=32歳
…(11)と(12)はひとつながりのストーリーなので。
以上の予備知識を持ってニュー52バットマンシリーズを読んでいただけると、大分理解しやすくなると思います。
▐『スーパーへヴィ』から読んでほしい。
さて、以上を前提に『ブルーム』を見てみると、『ブルーム』は実は『スーパーへヴィ』の下巻という位置づけになってます。
ですので、『ブルーム』を100%楽しむためには、ここはやはり『スーパーへヴィ』から読んでほしいところです。
え、そんなに何冊も買えない?
分かります。スーパーへヴィは2,200円、ブルームにいたっては2,500円もします。
ですが、その前に『スーパーへヴィ』を読んで届いた読者ハガキを見てから決めても、遅くはありません。
まずは京都市在住30代女性のハガキをご紹介します。
「時系列の順に邦訳が続いているので読みやすく、次巻ブルームの期待が高まります。”普通”のブルース・ウェインをいつまで見守れるか楽しみにしてます」
――ありがとうございます。『ブルーム』も期待を裏切らない内容になってますよ!ただ残念ながら”普通”のブルース・ウェインを見れる時間はそんなに長くないかもしれません。
続いては東京都の50代女性からのお便りです。
「最近読み始めたので今は買いたいものばかりで財布が苦しいですが、刊行予定を見るとうれしくなります。絶版になっているのも読みたいです。」
――こうやって新しいアメコミファンが仲間に加わっていただけるのは嬉しい限りです!財布が苦しいのは・・・分かります、すいません。でも小社は『DCキャラクターズ:オリジン』(1,200円+税)、『バットマン VS. スーパーマン:ベストバウト』(980円+税)など、採算度外視で初心者が手にとりやすい価格に抑えて出してる本もあります。でもやっぱり高いですよね……。
続いては大阪府の20代男性です。
「バットマンがゴードンでも頑張ってるので、たくさんのバッツファンに読んでほしい。」
――頑張ってるゴードン本部長は、読んでて「がんばれー」って気持ちになりますよね!『ブルーム』でも、取材ヘリに衝突しそうになったり、天井を突き破って落下したりしながらミスター・ブルーム相手に奮闘する姿は必見です!なお、この方のご愛読メディアは「小プロ公式サイト」ですって! ありがとう~!
……いかがですか?『スーパーへヴィ』も気になってきますね!
ゴードン本部長のバットマンとしての活躍や、青い高機能最新型バットスーツのカッコよさなど見どころ満載ですので、買ってもきっと後悔しません。
▐『ブルーム』の見どころ
さて前置きが大分長くなりましたが、そろそろ本コラムの本題である『ブルーム』の紹介に入りたいと思います。
まずは粗筋のご紹介から。
▼B▼L▼O▼O▼M▼
▲B▲L▲O▲O▲M▲
まず掛け値なしにいえますが、本書はストーリーが分かりやすく面白いです。ストーリーの中で、主要登場人物たちが翻弄され、葛藤し、そして活躍します。
本書の主人公はブルース・ウェインですが、アルフレッド・ペニーワース、ジム・ゴードン、ジュリー・マディソン、デューク・トーマスといった人物たちも、物語の中で苦渋の決断を下し、象徴的な活躍をします。
ですが、個人的に一番気になったのは、本書のヴィラン「ミスター・ブルーム」の不気味さです。
お花のマスクに網タイツの手足という微笑ましい見た目とは裏腹に、手足の指先が鋭く伸びて犠牲者を一突きで殺し、あげくに5階建てビルを超える高さに伸びた後、背中から生えてきた木の枝に自分が殺した死体をぶら下げるという悪趣味さ。
▲ミスター・ブルーム
ニュー52バットマンに登場するヴィランの中でもその不気味さは、自ら開発した血清で骨を異常成長させた『ゼロイヤー』のドクター・デスと双璧をなします。
▲ドクター・デス
ブルームの体が伸びる点を捉えて、新本部長のマギー・ソーヤーは12ページで「ストレッチ・アームストロング」と称しています。
1970年代にハズブロから発売されたオモチャのゴム人形で体が4倍に伸びて元に戻るそうです。
出典:http://ameblo.jp/monjastaff/entry-11911280579.html
ミスター・ブルームは、とてもこんなかわいいキャラではありません。
ちなみに編集小ネタですが、『ブルーム』のカバー帯が黄色いのはミスター・ブルームの顔のお花をイメージしました(帯の背表紙側をよく見ると、お花がいっぱい描いてあります)。
次に私が注目したのは、『スーパーへヴィ』から続く高機能新型バットスーツのカッコよさです。
もはやスーツと称する域を超えていて、バットロボと言いたいところです。
思い起こせば、ニュー52でロボット型バットスーツが登場したのは、第2巻「梟の街」からでした(コチラです↓)。
次にロボット型が登場したのは第10巻『エンドゲーム』のコチラです↓
大分今っぽい、複雑でクールなデザインになってます。
そして第11巻『スーパーへヴィ』で一気に洗練されたカッコいいデザインになりました。
個人的に映画化を期待するぐらいカッコいいなーと思ってます。
そして、本巻『ブルーム』では大量のロボット型バットスーツがイッキに登場します↓
エ●ァンゲリオンを彷彿とさせる、こんなんも登場しちゃいます↓
バットマンが操縦するコイツは、最後にミスター・ブルームを思いっきりぶん殴ります↓
……ですが、バッツファンの我々にとって残念な出来事もあります。
そのカッコいい新型バットスーツ達が、揃いも揃ってミスター・ブルームにハッキングされちゃうことです。マギー・ソーヤー本部長が乗るバットスーツさえもハッキングされて市民を攻撃しだす始末です。
おーい! しっかりしろー!と、心の中で舌打ちせずにはいられません。
でも、これは単なるシステムのバグなんでしょうか? 新型バットスーツの開発とミスター・ブルームの誕生が、もし同じ根っこでつながっていたら……。
おっと、以上は私の推測ですが、これ以上話すとネタバレになる危険もあります。
この後の展開から、ニュー52バットマンを通して、バットマンの意味を問いかけ、掘り下げてきたライターのスコット・スナイダーが出した一つの答えが読み取れます。
それは、「バットマンとはゴッサムに住むあなたたちだ」ということです。つまり一人のスーパーヒーローが街を救うわけではないということです。
それは『ゼロイヤー陰謀の街』100ページのブルース・ウェインの演説の底流に流れる価値観と同じです。
スコット・スナイダーは見事にニュー52バットマンを大団円へと導き、そして物語はいよいよフィナーレを迎えます。
『バットマン:エピローグ』です。
▲『バットマン:エピローグ』書店ポスター
『バットマン:エピローグ』の紹介は、8月に再び私が担当する予定です。今週はここらで筆を置きたいと思います。最後までお読みいただきありがとうございました。
それではまた。来週の更新もお楽しみに!
(文責:小出)
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