アメコミ魂をご覧の皆さま、こんにちは!
本日ご紹介する書籍は、DCリバースシリーズバットマン関連誌の一つ、「オールスター・バットマン」VOL.2となる『オールスター・バットマン:エンド・オブ・アース』です。
スコット・スナイダー[作]
ジョック他[画]
定価:本体2,300円+税
●2018年8月23日頃発売●
本書の見どころはズバリ、"バットマン、アメリカ大陸を転戦"です。
VOL.1『オールスター・バットマン:ワースト・エネミー』に引き続き、バットマンは慣れ親しんだゴッサムシティを離れ、アメリカ大陸を股にかけてヴィラン達と戦います。
アラスカの凍原でミスター・フリーズと死闘を演じ、ネバダの砂漠でポイズン・アイビーを必死に説得し、ミシシッピの沼沢地ではマッドハッター相手に思わぬ苦戦を強いられます。
トム・キングが新たなバットマン像を描くメイン・タイトル誌「バットマン」シリーズも大変面白いですが、いつもの見慣れたゴッサムシティ以外の場所でバットマンが活躍する様は大変新鮮で、面白く感じることでしょう。
他にも、本シリーズにはバットマン本誌とは違った数々の魅力があります。
「なぜ、あなたにオールスター・バットマンをお薦めするのか?」
本ブログでその魅力の一端をご紹介させていただければ幸いです。
▮ 「オールスター・バットマン」シリーズの見どころ
見どころ1 スコット・スナイダーが脚本を書いている。★★★
2016年に始まった現行の「DCリバース」シリーズに先立つ「THE NEW 52!」シリーズで、その旗艦誌とも言うべき「バットマン」シリーズを大成功に導き、一躍DCコミックスを代表する人気ライターとなったのがスコット・スナイダーです。
その魅力を私なりに分析すると、物語序盤から伏線や意味を敷き詰めつつ、それらが有機的につながり一貫性を持ちながら、クライマックスに向かってきちんと盛り上がれるところに、映画的な面白さがあるからだと思います。
本作でも、一見4人のヴィランの物語がオムニバス的にバラバラと収録されている印象を受けるかもしれませんが、最後まで読むと4編の物語が有機的に結びついていて、無駄なエピソードが一つもないどころか、ニュー52から続く一続きのストーリーとなっていることを実感できることでしょう。
さらに訳者の解説によると、本書にはバットマン誌のみならずDCユニバース全体にかかわる重要な伏線が仕掛けられているそうです。
バットマンファンのみならず、全DCファンの皆さまに機会があれば読んで欲しい一冊です。
見どころ2 ヴィランの物語である。★★
「これはバットマンの物語ではない…」「…たとえそう見えたとしても」
これは本書収録の「終末への道:最終章」に記されたナレーションです。
そう、まさに「オールスター・バットマン」は、バットマンの物語ではなくヴィランの物語なのです。
本シリーズのタイトル"オールスター"とは、バットマンのヴィラン達がオールスター(総出演)というわけです。
他のヒーローに比べても、バットマンには魅力的なヴィランが多い!と思っているのは私だけではないでしょう。
そもそも本シリーズ開始のきっかけについて、スコット・スナイダーがインタビューで語ったところによると、「ニュー52で描き切れていない魅力的なヴィラン達がたくさん残っている。彼らを使って表現したい物語がある」からだそうです。
そんな中、今日ご紹介する『エンド・オブ・アース』は一人のヴィランに一章まるまる割り当てられており、トゥーフェイス一人にメインスポットが当てられ他の多数のヴィラン達はゲスト的な出演にとどまったVOL.1『ワースト・エネミー』と比べても、ヴィランの魅力を一人一人深掘りしてじっくり堪能したい読者にとっては企画意図に沿った満足できる構成といえるでしょう。
見どころ3 アーティスト陣が"オールスター"である。★★
本シリーズの意欲的な試みの一つとして、スコット・スナイダー注目の様々なアーティスト達が作画を担当している点が挙げられます。
…とはいえ、この点についても『ワースト・エネミー』ではジョン・ロミータ Jr.が一人で本編のペンシルを担当していました。
しかし本書『エンド・オブ・アース』では、各章ごとに異なるペンシラーを立てており(※ジョックだけは2章を担当)、その意味でも"オールスター"のコンセプトに忠実な制作体制が実現できているといっていいでしょう。
各アーティストの魅力は各章の紹介で改めて取り上げます。
スコット・スナイダーは本シリーズ立ち上げの際、アーティストそれぞれに描きたいヴィランを聞いてから、各作家の個性を生かしつつヴィランを選定したそうです。
なんとなく、各アーティストの筆致に合ったヴィランがうまくチョイスされていると感じるのは私だけでしょうか?
(テュラ・ロテイによるポイズン・アイビーの妖艶な表情や、ジョゼッペ・カムンコリによるマッドハッターの狂気じみたコミカルな表情、そしてジョックによる躍動感あふれるミスター・フリーズの身のこなしなど。)
しかし物語全体の構成や演出は、各アーティストに丸投げではなく、まとまりが出るようにスコット・スナイダー自身が考えているそうです。
ネームも彼が切っているのでしょう。
たとえば各章1ページ目は、遠くから一コマずつ歩いて近づいてくるバットマンが、共通して描かれます。
エピソード毎に舞台が異なりアーティストも違うとなると、どうしても統一感が失われがちですが、1ページ目で同じ構図がデジャブのように描かれることで、全体としてピリッと引き締まった印象を受けます。
さらに「さすがスコット・スナイダー!」と感じさせるのは、本編最終章の最終ページでは逆に歩いて遠ざかるブルース・ウェインが描かれ、物語のエンディング感をバッチリ表現している点です。
お洒落です!
見どころ4 デューク・トーマスが活躍する。★
DCリバースからバットマンの元で修業を始めたデューク・トーマスが、本シリーズでは本格的にサイドキックを務めています。
デュークの心の葛藤と成長を描く、彼を主人公としたミニシリーズ「呪われた輪」での活躍はもちろん、本編中でもサイドキックとして常にバットマンをサポートします。
もちろん、バットマンのメイン・タイトル誌「バットマン」シリーズでもデューク・トーマスは出演しますが、そちらでは、どちらかといえばバットマン一人に焦点が当たっている感が否めません。
新たな相棒の活躍と成長は、読んでいて新鮮な気持ちにさせてくれます。
…続いては、本書各章の見どころをそれぞれ紹介してまいります。
▮ 終末への道:第1章
冒頭、雪原を歩くバットマンという珍しいシーンから始まります。
そのスーツは寒冷地対策もバッチリなされ、ミスター・フリーズを連想させるバブルヘルメット(耳付き!)、首にファーの付いたマント、腕には高温バッタランを連射できるアームキャノン…とどこかユーモラスな装いのバットマンは新鮮です!
そして本章で対峙するヴィランは、ミスター・フリーズです。
■ミスター・フリーズ
ニュー52以降の設定では、元ブルース・ウェインの会社、ウェイン産業で働く冷凍技術の研究者でしたが、研究の中止を言い渡され逆上し施設を壊した際に化学物質を浴びて、極低温でしか生きられない体質となりました。そのせいで常に特殊なスーツを着用しています。冷凍銃を武器に使います。
研究対象として出会った、半世紀近く冷凍睡眠している女性ノーラを自分の妻だと思い込み、今も目覚めさせようとしています。
■ジョック
本章のアーティストはジョックです。
その特徴は、バンド・デシネを彷彿とさせる細い線と大胆なベタの印影が、とにかくお洒落なんです!
どことなく、超絶技巧で人気の二コラ・ド・クレシーに似た雰囲気を感じさせ、個人的には本書の中で一番好きなアーティストさんです。
またコマ割りやフキダシの配置も独創的で、黒い配線コードやメインカットの影の部分をフキダシに見立てたりと工夫を凝らしています。
彼の線は丁寧さより勢いを重視した筆致で、かつコマ割りが独創的なので、もしかしたら見辛いと感じる読者さんもいらっしゃるかもしれませんが、そういった自らの特徴を意識してでしょう、多用される大胆な大ゴマや余白が見やすさとともにメリハリをもたらし、それも相まって芸術性の高さを感じます。
またフキダシの背景色にも注目していただきたいです。
雪原では白、暗い建物の中は黒、そして焼夷弾で燃え盛る建物の中では赤茶色と、場面に応じて色を変えることでシーンの印象を構築しています。
ジョックが手掛けた作品としては、他に『バットマン:ブラックミラー』や『グリーンアロー:イヤーワン』(共に小社刊)などがあります。彼の絵が気に入った方はぜひチェックしてみてください。
▮ 終末への道:第2章
第2章では、ポイズン・アイビーをフィーチャーしています。
■ポイズン・アイビー
ニュー52以降の設定では、ウェイン産業の生化学部門インターン生としてフェロモンの研究をしていた彼女は、洗脳技術の有用性をブルース・ウェインにプレゼンしますが、逆に危険視され解雇されてしまいます。その際自らが開発した薬品を浴びて、植物や人間をフェロモンで操り、死に至らしめる能力を手に入れました。
■テュラ・ロテイ
本章のアーティストはテュラ・ロテイです。
大胆な太い線と原始的な配色がポール・ゴーギャン(ポスト印象派フランス人画家)を彷彿とさせます。
ジョックとはまた違った芸術性を感じさせる作風で、普段アメコミではちょっと見ない絵柄で新鮮でもあります。
多用される黄色やオレンジ、茶色などの暖色系の色合いが太い線に合っていると同時に、ネバダの砂漠を舞台にした本章のストーリーに親和性が高いです。
▮ 終末への道:第3章
本章ではマッドハッターというややマイナーヴィランを取り上げています。
■マッドハッター
特殊な帽子を使って相手の精神を操ります。「不思議の国のアリス」に偏執的な愛着を持っています。
ニュー52以降の設定では、子供の頃に背の低さからコンプレックスを抱き、まだ開発中の薬を飲んだことがきっかけで精神のバランスを崩し、アーカム・アサイラムに入院させられました。
■ジョゼッペ・カムンコリ
本章のペンシルを担当したのはジョゼッペ・カムンコリです。
主な代表作として、ダン・スロット脚本の『アメイジング・スパイダーマン』『スーペリア・スパイダーマン』のほか、最近の仕事として『バットマン:ヨーロッパ』があります。
…本章の見どころとして、ストーリー的には本書の中で一番面白かったです。
『バットマン:ゼロイヤー 陰謀の街(THE NEW 52!)』で語られたバットマンの誕生譚、そしてそれに続くバットマンの活躍全てを全否定するような驚愕のエピソードが、正直小物感のあるマッドハッターの口から語られます。
バットマンのみならず、ベインやジョーカー、リドラー、ハーレイ・クインなどA級ヴィラン全員を全否定しかねない仕掛けとは!?
余談ですが、バットマンがフラミンゴを武器に戦うシーンは最高に笑えます!
▮ 終末への道:第4章
実は第1章から第3章までは壮大な伏線にすぎず、全ては第4章で正体が明かされる黒幕へとストーリーはつながっていきます!
ミスター・フリーズがもたらした災厄、ポイズン・アイビーの役割、そしてマッドハッターの技術がどのように第4章につながってくるかは本書を手に取ってお楽しみください。
以上、今週のアメコミ魂はこの辺りで。最後までお読みいただきありがとうございました。来週の更新もお楽しみに!
(文責:小出)
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