2018年7月24日火曜日

見どころ満載!『バットマン:アイ・アム・ベイン』

アメコミ魂をご覧の皆さま、こんにちは!
本日ご紹介するコミックは、見どころ満載の一冊です。『アイ・アム・ゴッサム』『アイ・アム・スーサイド』と続いた"アイ・アム三部作"の最終巻となる『バットマン:アイ・アム・ベイン』です。

トム・キング[作]
デイビッド・フィンチ他[画]
定価:本体2,300円+税
●2018年7月19日頃発売●

収録作品は、表題作"I AM BANE"(邦題:「ベイン襲来」)に加え、バットマンがキャットウーマンにプロポーズする、バットマン史に残るロマンチックな一章"EVERY EPILOGUE IS A PRELUDE"(邦題:「終章、そして序章」)、2017年アイズナー短編部門受賞の珠玉の一篇「忠犬」、そして古典的ホラー・ヒーロー、スワンプシングの嘆傷を描いた「勇者と沃土」と、いずれも好編揃いとなってます。

どのエピソードも面白く、さらにお値段の割にページ数も多く、バットマン好きもそうでない人にもぜひお薦めしたい一冊です。

ではさっそく内容を見ていきましょう!


『バットマン:アイ・アム・ベイン』の見どころ


本書は、スコット・スナイダー[作]とグレッグ・カプロ[画]のコンビで"名作"といわれたTHE NEW 52!バットマンの続編といえるシリーズ(DC REBIRTHシリーズ)作品です。

担当作家は、元CIA対テロ・センター勤務という異色経歴の持ち主で気鋭脚本家のトム・キングと、『フォーエバー・イービル』(小社刊)など重厚な絵柄に定評のあるデイビット・フィンチで、DCリバースの中でも旗艦と位置付けられる本シリーズを任されるだけあって、期待に違わぬ出色となっています。

特にデイビット・フィンチのアートは躍動感と重量感を併せ持ち、バトルシーンの多い本書にふさわしい筆致を披露していると思います。べインの血管の浮き出た隆々とした筋肉、殴ったときの血しぶき、ヴェノムを脳に注入した瞬間の筋肉が膨張する様など、バットマン誌にふさわしいクオリティといえます。

ストーリー的には、本書はTHE NEW 52!の続編とはいえ、特にTHE NEW 52!シリーズを読んでなくても理解できる内容になっています。

しかし、DC REBIRTHシリーズ第1巻となる『アイ・アム・ゴッサム』、第2巻『アイ・アム・スーサイド』の内容は知っていると、本書をより楽しめると思います。
そこで、簡単に前二巻の粗筋をご紹介しておきます。

『アイ・アム・ゴッサム』


デューク・トーマスを新たなサイドキックに従え、ゴッサムの守護者として活動を続けるバットマンの前に、彼に憧れヒーロー活動を始めたメタヒューマン、ゴッサムとゴッサムガールの兄妹が現れた。

驚異的な身体能力、不死身の肉体、超視力を持つ彼らを、バットマンは自らの後継者として育てていくことを考え始めた矢先、神の正気すら奪うことのできるサイコ・パイレートと、彼を操るヒューゴ・ストレンジによって、ゴッサムとゴッサムガールの精神は破壊され、怒りの感情に支配されたゴッサムは暴走を始めた。

相手に応じて自らの力の限界を制御することができるゴッサムを、出動したジャスティス・リーグですら止められない中、ゴッサムガールがゴッサムを殺すことで終止符を打つのだった。

兄を殺したことで完全に精神に異常を来したゴッサムガールを治療するには、サイコ・パイレートの力が必要だ。
バットマンは彼女を救うため、サイコ・パイレートがいるベインの独裁国家サンタ・プリスカ島への潜入を決意した。

『アイ・アム・スーサイド』


バットマンは、政府機関タスクフォースXの長官アマンダ・ウォラーと手を組み、自らのスーサイド・スクワッドを結成した。

選ばれたメンバーは、格闘技の達人ブロンズタイガー、もう一つの人格スカーフェイスの支配下にあるベントリロクイスト、かつてベインの元から脱出したことのあるパンチ、パンチの恋人ジュエリー、そして危険な怪盗キャットウーマンの5人だ。

単身空からサンタ・プリスカに侵入したバットマンは一度はベインに捕まり、かつてベインが17年間を過ごした地下牢に叩き込まれるが、容易く抜け出し、ベントリロクイストとキャットウーマンを裏門から招き入れた。
一方ブロンズタイガーとパンチとジュエリーの三人は、ベインへの面会と称して正門から堂々と施設内部に侵入した。

奮闘の末、洗脳が効かないベントリロクイストの特性を利用して、最終的にバットマンはベインからサイコ・パイレートを奪還することに成功するのだった。

「ベイン襲来」

続いて本書本編のストーリーをご紹介します。

ゴッサムを襲撃したベインは、ディック・グレイソン、ジェイソン・トッド、ダミアン・ウェインの三人をバットケイブに吊るし、キャットウーマン、ブロンズタイガー、デューク・トーマス、ゴードン本部長を誘拐し、バットマンに対しサイコ・パイレートとの交換取引を持ち掛けた。

しかしバットマンとキャットウーマンの計略で、逆に腹心の部下トロッグ、ゾンビ、バードを倒されてしまう。

万策尽きたベインは、サイコ・パイレートを取り戻すために、彼が収監されるアーカム・アサイラムに単身侵入することを余儀なくされる。

しかしこれもバットマンの計画の一部だった…!

アーカム・アサイラムで待っていたのは、バットマンに協力するマクシー・ゼウス、トゥーフェイス、ソロモン・グランディ、アミグダラ、スケアクロウ、ミスター・フリーズ、ファイヤーフライ、ブラックスパイダー、フラミンゴ、マンバット、ザーズ、マッドハッター、ドクター・フォスフォラス、ハッシュ、カッパーヘッド、そしてリドラーといった凶悪ヴィラン達だったのだ。

ベインがサイコ・パイレートとバットマンがいる部屋に辿り着くには、立ちはだかるヴィラン全てを倒さなければならない…!!

…そう、バットマンはヴェノムで増強されたベインと直接戦う不利を考え、アーカム・アサイラムのヴィラン達とベインを戦わせることで、ベインを消耗させて戦いを有利に運ぼうと考えたのです。

この作戦を聞いて、ピンとくる方もいらしゃるでしょう。

1993年に発表された『Knightfall』でベインがバットマンを倒したときに取った作戦への意趣返しです。

『Knightfall』でベインは、バットマンと直接戦っても負けると考え、ジョーカー、スケアクロウ、リドラー、ポイズン・アイビー、マッドハッター、ベントリロクイスト、ファイヤーフライ、ザーズ、アミグダラといったアーカム・アサイラムのヴィラン達を解き放ちバットマンに対処させることで、バットマンを精神的にも肉体的にも弱らせ、最後ベイン自らウェイン邸に乗り込みバットマンの背骨をへし折ったのです。

このようにバットマンを唯一倒した男であるベインの優れた点は、単に強靭な肉体と戦闘力を持つだけでなく、知性も非常に優れている点にあります。

そこで今回、バットマンは入念な準備をした上でベインと対峙することにしたのです。
その結末がどうなったかは、ぜひ本書を手に取ってご覧ください。

"アイ・アム~"に込められた意味

本シリーズの特徴の一つは、その印象的なサブ・タイトルです。

vol1が『アイ・アム・ゴッサム』、vol2が『アイ・アム・スーサイド』、そして本書vol3が『アイ・アム・べイン』です。
このタイトルに込められた意味は何でしょうか。

字面を見れば、それはバットマン以外の実在するキャラクター(ゴッサム、スーサイド・スクワッド、べイン)を指しています。しかし、バットマン誌のタイトルである以上、これらは逆にバットマン自身を指していると考えてよいでしょう。

つまり、まず"ゴッサム"は、THE NEW 52!から続くテーマである"バットマン=ゴッサム、ゴッサム=バットマン"、まさにバットマンのオルターエゴ(分身)であり、アイデンティティ(行動原理)を指すと思います。

続いて"スーサイド"(自殺)は、バットマンの戦い方です。つまり、墜落する飛行機からゴッサムシティと乗客を守るために飛行機の屋根に飛び乗って操縦したり、ゴッサムガールを救うために独裁国家サンタ・プリスカに侵入したりと、まさに命を捨てるかのようなバットマンの戦い方を指していると思います。

そして"べイン"とは、バットマンの生き方を指すと思います。
本書において、"べインの人生=バットマンの人生"を明確に示すシーンがあります。
雨のゴッサムシティで二人が最初に対決するシーンです。母親を失った二人の少年が苦難を乗り越え、仲間を作り、やがて最強のライバルの存在を知るまでの二十数年が、走馬燈のように対比して描かれます。
一見全く違う人生を歩む二人ですが、まさに瓜二つです。

しかし、本質は瓜二つですが、環境においては大きな断絶があります。
片や裕福なお坊ちゃん、片や文字通り地獄の底から這いあがった男。その大きすぎる環境の違いにより、二人が相容れることはやはり不可能なのでしょう。
本書において似たもの同士の二人は、不可避的に決定的な対決の場に引き寄せられるのです。

「終章、そして序章」

このように、"アイ・アム三部作"における裏テーマは、"バットマン=ゴッサム""バットマン=スーサイド""バットマン=べイン"です。そしてそのテーマにおいて描写されるのは、祝福でなく悲劇です。

その哀しい現実は、「ベイン襲来」における戦いのクライマックスで叙述されるブルース・ウェインの母マーサ・ウェインの語り、および全てが終わった後、「終章、そして序章」で描かれる、正気を取り戻したゴッサムガールとバットマンの会話において描かれます。

ここでバットマンは、はっきりと「好きでバットマンをやっているわけじゃない」「バットマンとしての生き方は、私にとって幸せじゃない」と述べます。

なぜ幸せじゃないのか?それはバットマンが「恐れを抱いている」からです。

それに対しゴッサムガールは、「わたしたちは恐怖と戦える」「あなたは何がしたいの?」とバットマンに問いかけます。

この重要な問いかけが、バットマンの何かを吹っ切らせたのでしょう。

この後、ブルース・ウェインはバットマン史に残るであろう重要な行動に出ます。

キャットウーマンへのプロポーズです。

あらゆるバットマンファンに届けたいこの感動的なシーンを見るだけでも、本書は一読の価値があります。


その他の見どころ


バットバーガー

本書冒頭でブルース・ウェインが歴代ロビンたちとランチ・ミーティングをする場所が、なんと「バットバーガー」なるファーストフード・ショップです。

どうやら最近ゴッサムシティにできたバーガーショップらしく、店員はバットマンやワンダーウーマンのコスチュームを着て、メニューは「NIGHT-WINDS(ナイトウィングの手羽先)」「KGBLT(KGビーストのBLTサンド)」、チキンナゲットならぬ「ROBIN NUGGET」、シーザーサラダならぬ「IVY SALAD NOT POISON(毒なし)」、内装もバットマンにちなんだデザインになっていて、おそらく脚本家のトム・キング一流の遊び心だと思われます。

さらにポテトは「Jokerize(ジョーカー化)」できるらしく、緑と赤と白のフレーバーを加えられるそうです。

それにしても、執事に育てられた堅物のブルース・ウェインは、ファーストフード店には超絶場違いで、完全に浮いてます。
ブルース・ウェインがナイフとフォークでハンバーガーを食べようとする様子は、本書冒頭の見どころの一つ(?)ですので、ぜひお楽しみに!

アイズナー賞短編部門受賞作「忠犬」

巻末に収録されている二つの読み切り短編の一つ「忠犬」は、私が特に好きな作品ですが、最初読んだときはお恥ずかしながら意味が分かりませんでした。

簡単に粗筋を紹介すると、ジョーカーが棄てたエースという名の狂犬を、アルフレッドが引き取って、躾(しつけ)するという内容です。

わずか8ページの作品で、最初何が面白いのか分からなかったのですが、最後のページの最終コマでようやく意味が分かり、今では読み返すたびにニヤニヤしてしまいます。

脚本家は本編同様トム・キングです。
上で紹介した「バットバーガー」メニューの小ネタだったり、次にご紹介する「勇者と沃土」の原題が2008年から2011年までカートゥーンネットワークで放送されたバットマンのアニメシリーズ「The Brave and the Bold」をもじった「The Brave and the Mold」であることを考え合わせると、おそらくトム・キングという作家は大変ウィットに富んだ人物なのでしょう。

もしかしたら、彼はバットマン誌にユーモアの要素を持ち込んで、これまでと少し違ったバットマン像を作り上げてくれるかもしれませんね。

「勇者と沃土」

本書最後の短編です。

主人公はスワンプシングという1971年にレン・ウェインとバーニー・ライトソンによって生み出されたキャラクターです。
不朽の名作『ウォッチメン』のアラン・ムーアのアメリカ・デビュー作として描かれたことがあり、また1982年に『怪人スワンプシング/影のヒーロー』、1989年に『怪人スワンプシング』と2度も映画化された往年のカルトホラー・ヒーローです。

スワンプシングの上記の特徴を意識してか、この作品も演出の面で色々と工夫が施されています。

古いサイレント映画のようなクラシックなチャプタータイトルのロゴ、『ウォッチメン』を想起させる均等な9分割のコマ割りと、バナー状の横長5コマのコマ割りを整然と並べて見せることで、作品全体がレガシーな雰囲気を帯びています。

また本章は、本章がUSで発表される2か月前(2017年4月)に他界したバーニー・ライトソンに捧げる作品ともなってます。

古典的キャラであるスワンプシングという主題と相まって、本書の最後を飾るにふさわしい重厚な作品といえるでしょう。


…以上、長文になってしまいましたが、最後までお読みいただきありがとうございました。見どころ満載の本書の魅力が伝われば幸いです。
今週のアメコミ魂はこのあたりで。また来週お会いしましょう!
(文責:小出)

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