2018年10月9日火曜日

ジョーカーVS.リドラー『バットマン:ウォー・オブ・ジョーク&リドル』

アメコミ魂をご覧の皆さま、こんにちは!
本日ご紹介するアメコミは、来週発売のバットマン第4巻『バットマン:ウォー・オブ・ジョーク&リドル』です。


トム・キング[作]
ミケル・ハニン[画]
定価:本体2,300円+税
●2018年10月18日頃発売●


「私と結婚してくれ」

前号『バットマン:アイ・アム・ベイン』の最後、バットマンはキャットウーマンに告白しましたが、本号はそれを受けての物語になります。

晴れてキャットウーマンにプロポーズしたものの、バットマンはまだ誰にも知られていない過去に犯した過ちが引っかかっており、結婚するためには「私が何をしたのか、君は知る必要がある」と言って告白を始めます。

この告白で明かされる過去のエピソードが、本書の内容となっている「ジョークと謎の戦争」です。

「ジョークと謎の戦争」といえば、これまでバットマン・リバースシリーズで度々語られてきました。

ジョークと謎(リドル)という名前からジョーカー(*1)とリドラー(*2)の争いだろうとは想像がつきますが、それ以上のことは謎のままでした。しかしついに本書でその内容が明かされることとなったのです。

*1 ジョーカー
本名不詳。"犯罪界の道化王子"と呼ばれ、バットマンに異様な執着を見せる凶悪犯罪者。ニュー52以降の歴史では、『バットマン:喪われた絆』シリーズでバットファミリーを危機に陥れ、『バットマン:エンドゲーム』でゴッサムシティごとバットマンを葬ろうとした。

*2 リドラー
本名エドワード・ニグマ。謎解きやパズルに病的なこだわりを見せる冷酷な知能犯。ニュー52では、本書以前の出来事となる『バットマン:ゼロイヤー』で、ブルース・ウェインの会社に経営顧問と潜り込み、その後台風の到来を利用してゴッサムシティを乗っ取ったこともある。


本書の見どころ


では内容を見ていきましょう。

まず時代設定は、ブルース・ウェインがバットマンとしての活動を始めた1年後です。
コミックスの時系列でいうなら、『バットマン:ゼロイヤー 陰謀の街 (THE NEW 52!)』の1年後、『バットマン:梟の法廷 (THE NEW 52!)』の5年前の出来事です。

(※THE NEW 52!以降のバットマン誌の時系列は、過去のアメコミ魂「大団円へと向かうニュー52バットマン、最高潮!」で詳しく紹介してます。よろしければ参考にどうぞ。)

ニュー52の時代なので、バットスーツのデザインが今のリバースと違って、胸のコウモリのエンブレムに黄色いフチがなく、マントの内側も紫色ではありません。
またゴードン本部長やアルフレッドが心なしか今より若いです。

そして肝心の本書の内容はというと、……これがめちゃくちゃ面白いんです。
DCリバースシリーズのバットマンはどれも面白いのですが、VOL3『バットマン:アイ・アム・ベイン』が最高に面白かったので、もうこれ以上面白いことにはならないだろうと思っていたら…、見事期待を裏切られました。

ジョーカーとリドラーというバットマンを代表する個性派ヴィランが、ゴッサム中のヴィラン達を巻き込み一大抗争を繰り広げるという設定が、まず面白い。

そして、そこで描かれる抗争のスケールとリアルな描写が半端ないんです。
以下、詳しく見ていきます。
(※以下、ネタバレを多少含みますが、核心は外してご紹介します。先入観なしに本書を読みたい方はここでブログを閉じてください。)


登場ヴィラン


まず、登場するヴィランですが、バットマンのヴィラン・オールスターともいえる豪華なメンツが揃います。

ジョーカー陣営に属するヴィランがこちら。


1) 冷凍銃で戦うミスター・フリーズ
2) マインドコントロールを得意とするマッドハッター
3) 不死身の怪力男ソロモン・グランディ
4) 狙撃の盟主デッドショット
5) 本書で驚きの経歴が明かされた裏社会の実力者ペンギン
6) 知能犯クルーマスター
7) 血清により獣人と化したマンバッド
8) 腹話術人形を通じて犯罪を行うベントリロクイスト
9) 二人組の怪人トゥイードルダム&トゥイードルディ


一方リドラーに与するヴィランがこちら。


1) 植物を操るポイズン・アイビー
2) 恐怖ガスを使うスケアクロウ
3) 粘土のような体で自在に姿を変えるクレイフェイス
4) 猟奇的な殺人鬼ザーズ
5) 善悪二つの人格を持つトゥーフェイス
6) 特殊な皮膚病を患うキラークロック
7) 世界最強の傭兵の一人デスストローク
8) 特殊なスーツをまとう放火魔ファイヤーフライ

果たしてどちらの陣営が勝つのか、驚きの展開が待ってますのでご期待ください。


市民の犠牲者


次に、抗争による市民の犠牲者数がすごいことになってます。

ヴィラン達が殺した市民の数は、本書で描写され明らかな数だけでも、ジョーカーが49人、リドラーが15人、ポイズン・アイビーが6人、ザーズが6人、ファイヤーフライが4人、ミスター・フリーズが4人、デッドショットが4人、ベントリロクイストが3人、スケアクロウが2人、そしてマッドハッター、キラークロック、マンバッド、トゥイ―ドルディー、ソロモン・グランディ、トゥーフェイス、クルーマスターが各1人となってます。

また、戦争中に起こったデッドショットとデスストロークによる5日間の銃撃戦だけで、市民108人が命を落とします。


リアルな残虐シーン


さらに、リアルな残虐シーンの数々がエグいです。

ゴッサムシティの天気といえば雨や曇りのイメージが強いですが、本書のゴッサムシティは72日連続快晴という異常気象の真っ只中で、その鮮やか青空と対照的にジョーカーとリドラーによる凄惨な殺戮が繰り広げられます。

本書冒頭1ページ目から、拘束者を一人ずつステージに立たせ、面白くなければ殺すジョーカー、次のシーンは取調室で刑事を26回(アルファベットと同じ数)刺して惨殺するリドラー、そしてその直後にゴッサム市警の捜査官を射殺し、死体の顔で笑顔を作るジョーカーと、「よく思いつくな」というぐらい残虐描写のオンパレードとなってます。

さらにはタクシーを降りてある住居に向かったジョーカーが、

"家の持ち主はキムとトニーのテンプルトン夫妻" BANG BANG
"子供は3人" BANG BANG BANG

と銃声だけで殺した人数を読者に分からせてしまう表現が、個人的に印象的でした。


リアルな抗争シーン


また、組織抗争の有様を描いたシーンもリアリティがあります。

両陣営の調停を申し出たゴードン本部長に対し、リドラーはオレンジ色の囚人服に黒い頭巾を被ってアジトに来るよう要求し、片やジョーカーはパンツ一丁でアジトに来させました。

また、敵の一番弱い人間をわざと生かして相手のアジトを探る囮に仕立てる戦略などは、フィクションを超えた迫真性を感じます。


トム・キングの経歴


実はこの戦争描写こそが、脚本家であるトム・キングの真骨頂だと思われます。

ここで改めてトム・キングの経歴を見てみましょう。

『バットマン:アイ・アム・ベイン』のアメコミ魂記事でも簡単に紹介しましたが、トム・キングはDC、マーベルでインターンを経験した後、20代の頃にCIA対テロ・センターに勤務するという、コミックライターとして異色の経歴を持ってます。

ところで、CIA対テロ・センターとはどういった組織でしょうか。

2001年の911以降、アメリカは"テロとの戦い"を遂行してきましたが、実はこの対テロ戦争の中心組織がCIA対テロ・センターなのです。

CIAといえば情報収集・分析機関で戦闘集団というイメージはありませんが、911以前からビン・ラディンによる米国テロの危険を大統領に警告し、米政府機関の中で最もアルカイダに精通していたことから、対テロ戦争で主導的役割を担いました。

その中でも中心機関だった対テロ・センターは、911当時は300人程度のスタッフでしたが、その後10年で2000人のスタッフを擁し、CIA職員全体の10%を占めるほどの組織に膨れ上がりました。

そんな組織にトムキングは2003年から2009年まで7年在籍し、イラク、アフガニスタンという最前線で勤務していました。

アメリカの"テロとの戦い"は2011年のオサマ・ビン・ラディン殺害で一段落しますが、その間、2002年以降のCIAによるアルカイダ系テロリストへの拷問事件、2003年のイラク戦争、アルカイダによる2004年マドリード列車爆破テロ、2005年ロンドン同時爆破事件、2008年パキスタン・イスラムバード・マリオットホテル爆破テロ、スノーデン告発で社会問題にもなった2009年以降のCIA無人偵察機攻撃など、対テロ戦争のピーク時にトム・キングはその中心機関で働いていたのです。

※アルカイダが人質にオレンジ色の囚人服に黒い頭巾を頭に被せて殺害する衝撃的な映像を我々も目にしましたが、本書の中でリドラーがゴードン本部長と面会する際に要求した服装がまさにこれでした。

トム・キングにとって戦争、残虐行為、殺戮は想像の産物でなく、つい10年ほど前までその渦中で働いていたわけですから、彼の描く脚本のリアリティも納得がいきます。


食事シーン


『バットマン:アイ・アム・ベイン』で登場したバットバーガーは、ファンの間で大いに話題になりましたが、本書にもそれに匹敵する食事シーンが出てきます。

話し合いのためブルース・ウェインがジョーカーとリドラーをウェイン邸に誘って、ディナーを催すのです。

"幼い頃、母に言われた。「すべてを失ったらディナーを食べなさい」"
"理解できなかった。ディナーなんて毎晩あるじゃないか"
"違うの。9皿出てくる、フランス料理の伝統的なコースのことよ」"
"「ただ食べるだけじゃない」「作法を守ってじっくり味わう」「きっといいことがあるはず」"

というわけで、ブルース・ウェイン、ジョーカー、リドラーという驚きの三人がテーブルを囲んで、アルフレッドお手製のフランス料理フルコースを味わいます。



リドラーは大いに笑い、語らい、ジョーカーはむすっとした表情でナイフを投げつけ、ブルースはバットマンを憎むかのような迫真の演技をしてみせ、三者三様の表情で読者を楽しませてくれます。

ところで、トム・キングはここで料理9品をすべて丁寧に描写してみせます。
一見、ストーリーの本筋からは無駄とも思えるこの演出が、逆に調停交渉の緊張した雰囲気を読者に伝えるのに役立っているように思います。

トム・キングはこのディナーシーンだけで1章まるまる使うのですが、前章がデッドショットとデスストロークによる市民108人を犠牲にした血生臭い銃撃シーンだったので、その動と静のギャップがストーリーにメリハリと深みを与えてくれてます。


ユーモア


前作『バットマン:アイ・アム・ベイン』では、バットバーガーや「忠犬」で、トム・キング一流のユーモアを楽しませてもらいました。
(※アメコミ魂「見どころ満載!『バットマン:アイ・アム・ベイン』」をご覧ください。)

本作では、ジョークが好きなジョーカーと、なぞなぞに固執するリドラーが主人公ということで、前作以上にトム・キングのユーモアセンスが如何なく発揮されています。

「オモチャ屋に現れた男は言った…新しいブーメランが欲しい。だけど、古いヤツを捨てても戻ってきちまう」(ジョーカーのジョーク)

「ナイトクラブに潜り込みたい男がいたが、そいつは入場するための合言葉を知らない」「そこで男は入場客とドアマンの会話に聞き耳を立てた」「ドアマンが"12"と言うと客は"6"と答えて入った」「ドアマンが"6"と言うと客は"3"と答えて入った」「法則がわかったと思った男は、入り口に向かう」「ドアマンが"10"と言うと男は"5"と答えた」「すると男は手荒に追い返された」「理由は?」(リドラーのなぞなぞ)(…理由、分かりますか? 答えは本書で!)

など、随所に散りばめられたジョークとなぞなぞの数々も本書見どころの一つです。


まさかのカイトマン誕生秘話!


これまでDCリバースのバットマン単行本すべてに登場してきたカイトマン。
しかしどの登場シーンも、物語の本筋とは無関係なちょっと痛いキャラとして描かれていました。

カイトマンの登場回数の多さは、カレンダーマンと並んで個人的に不思議に思っていたところでしたが、そんなカイトマンの誕生秘話が、ジョーカーとリドラーが主役の本書の中で2章も使って描かれるのです!

カイトマンにとっては望外のヒノキ舞台といえますが、読者にとっては「なんでカイトマン? 必要あるの?」と面喰らう方もいらっしゃることでしょう。

しかも、誕生秘話(オリジン)といえばかっこいいですが、何ら特殊能力のない冴えない男が、ある出来事をきっかけにスーツを自作してカイトマンを名乗るという、そのコミカルさが逆に悲哀を感じさせる内容になってます。

しかしそんなカイトマンのオリジンが、本書結末でちゃんと意味を持ってくるのです!

本書を読み終わったら、主役は実はジョーカーでもリドラーでもなく、ましてやバットマンでもキャットウーマンでもなくカイトマンなんじゃないかと思えてきます。

その哀愁漂うオリジンと相まって、本書を読んだ読者はカイトマンのことがきっと好きになっていることでしょう!

以上、今週のアメコミ魂はこの辺りで。最後までお読みいただきありがとうございました!
(文責:小出)

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